嘘八百
ぺこ、と頭だけを下げて黒いキャップを被った雪が立とうとした。それをやんわり制する。
「好きなもの、頼んでくれ」
メニューが差し出された。
「いや、だったら自分で作るし」
「コーヒーは?」
「じゃあ、頼もうかな」
簡単に折れて、雪は鈴炉へコーヒーを注文した。それに安堵したように岬がカレーを食べすすめる。
店内には変わらず、緩やかな空気が流れていた。
「なんて呼んで良い?」
岬が尋ね、雪は答える。
「お好きにどうぞ」
生きてきて何度か投げられた質問だった。そして何度も投げ返した答えだった。