嘘八百

 ぺこ、と頭だけを下げて黒いキャップを被った雪が立とうとした。それをやんわり制する。

「好きなもの、頼んでくれ」

 メニューが差し出された。

「いや、だったら自分で作るし」
「コーヒーは?」
「じゃあ、頼もうかな」

 簡単に折れて、雪は鈴炉へコーヒーを注文した。それに安堵したように岬がカレーを食べすすめる。
 店内には変わらず、緩やかな空気が流れていた。

「なんて呼んで良い?」

 岬が尋ね、雪は答える。

「お好きにどうぞ」

 生きてきて何度か投げられた質問だった。そして何度も投げ返した答えだった。

< 26 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop