僕の10月14日
どうやって家に帰って来たのかも覚えていない。
あれから、何日たったのか・・・ 帰ってきてからたぶん初めて窓を開けた。
すると、アパートの隣に住んでいる大学の同級生の倉本が、ベランダ越しに顔をのぞかせ声をかけてきた。
「おい、石田~、お前怪我大丈夫なのか?」
「あー・・・」
倉本は僕の方をさらに覗き込んだ。
「おい、石田。ひでー顔してるぞ。どうしたんだ? ちゃんと食ってるか?」
「いいんだ・・・何も食いたくない。放っておいてくれ。」
「このままだと死ぬぞ。おい、玄関開けろ。」
「いいって・・・」
倉本は3階だというのにベランダのフェンスをよじ登り身体を一度外に出して、乗り越えて僕の部屋に入って来た。
「石田、何があった? 3日前に部屋で音がしたから退院したんだなって思っていたけど、学校にも来ないし、見かけないし、どうしたかなと思っていたらさっき窓を開ける音がしたからあわてて覗いたら死にそうな顔して・・・」
「倉本・・・俺もう生きていたくないんだ。だから放っておいてくれ。」
「何言っているんだ。しっかりしろ。俺が何でも聞いてやるから話してみろ。ああ・・・その前になんか食え。俺が作ってやるから・・・」
「いいって・・・」
倉本は僕の家のキッチンの棚を次から次へと開けた。
「何にもないな・・・待ってろ、カギ閉めるなよ。」
倉本は自分の部屋に戻ってあっと言う間に材料を抱えて帰ってきた。そして、小さなナベを使って即席ラーメンに卵とキャベツを入れたものを作った。
「とりあえず食え。」
僕は食べたくなかった。
「石田、食わなきゃだめだ。一口でもいいから食え。」
倉本があまりにもギャーギャーうるさいからしかたなく一口食べた。・・・美味かった・・・何日ぶりかに食べ物を口に入れた。一口、二口と食べていくうちに涙が出た。
「倉本・・・美味いよ。こんなにつらいのに美味いんだよ。なんなんだよ・・・」
僕は声を出して泣いた。自分でも驚くぐらいに泣いた。倉本はそんな僕の背中をさすり、何も言わずにずっと付き添ってくれた。