僕の10月14日
どれだけ時間が経っただろう。隣には倉本がいた。
「石田、落ち着いたか?」
「倉本・・・」
「何があった? 話せるなら話せ。少しは楽になるかもしれないぞ。」
「・・・倉本・・・お前、そんなに優しかったか?」
「そうだな。俺はお前には優しい。お前のこと好きだからな。」
「はっ? 何言ってんのお前。」
「冗談だ。元気出たか?」
「あー驚いた。でも少し目が覚めたかな・・・」
「それでどうした?」
「・・・ん・・・っと・・・さ・・・病院の・・・つまんない入院生活の中、かわいい彼女ができたんだ。毎日、おきまりのベンチで会って話して・・・笑って・・・とにかく楽しかった。二人で退院した後何をしようかどこに行こうかなんて話もしてたんだ。退院するのがイャになるくらい楽しかった。・・・それなのに・・・彼女は・・・僕の前から消えた・・・元気だったんだよ・・・あんなに笑っていたのに・・・そんな死ぬなんてことはまったく考えられなかったのに・・・まだ、退院後にやりたいこと全部聞いてないんだよ・・・うぁ~・・・」
「・・・そりゃ・・・辛いな。」
「・・・彼女は僕を変えた。・・・女の子の前だと話もできなかった僕なのに、彼女の前だと素直に話が出来た。素直で・・・可愛くて・・・年齢より幼い感じで・・・天使のような女の子だった・・・」
「名前は?」
「華菜ちゃん・・・いつも白い服を着て黒髪のロング。前髪はスパッと揃えていて、目かキラキラして・・・フルートやっていたって・・・白い手でフルート持っているところがぴったりな感じで。そしてコスモスの花が好きだと言っていた・・・そういえば、コスモスでも白が好きだと言って、何でって質問したのに・・・答えないで僕の前から消えた・・・」
「白いコスモスか・・・」
倉本はスマホで何かを調べた。
「石田・・・その子の誕生日は? 」
「聞いていない・・・」
「聞いていないのかよ。普通聞くだろ。血液型とか星座とかさー。あのさ、白いコスモスで検索すると10月14日って出て来る。多分その子の誕生日も10月14日だな。」
「そうなのか・・・ダメだな俺は・・・そんなこと考えもしなかった・・・。あの時、華菜ちゃんの退院の時には彼女の好きな花を渡そうと思って何の花が好きか聞いただけだ・・・他のこと何も聞けてない。やっぱり・・・俺はダメダメだな・・・」
「・・・」
「・・・なあ倉本は・・・長野にあるコスモス街道って行ったことある?」
「ああ、子供の頃家族で行ったことがある。綺麗だった。道沿いにずっと咲いていてそしてあたり一面にコスモスが咲いるところがある。その中を歩けるんだ。妹がはしゃいでいたのを思い出すよ。」
「そうか・・・やっぱり一緒に行きたかったな。一緒に行こうって話していたんだ・・・」
「そうか・・・お前、怪我治ってバイク乗れるようになったら行って来いよ。」
「ああ、そうだなー」
「お前、もう死ぬなんて言うなよ。寂しかったら俺が付き合うから、いつでも言えよ。」
「ありがとうな・・・。そうだ、一つ頼んでいいか。明日、学校に行くから付き合ってくれるか。」
「ああいいけど、何限に出るんだ?」
「いゃ、授業じゃない。学生課に行く。退学届け出しに・・・」
「はっ? 何言ってんの、お前もう4年だぞ。ちゃんと卒業しろよ。」
「だって、随分休んじゃったし、留年なんてできないから・・・」
「絶対救済措置があるよ。レポートとかさ。俺が手伝ってやるからさ・・・」
「お前・・・なんでこんなに優しくしてくれるんだ?」
「だから言っただろ。俺はお前のこと好きだからさ。」
「お前、面白いやつだったんだな。」
「いいだろ。お前に俺は必要だ。退学はダメだ。俺がどうにかしてやる。」
「倉本・・・お前・・・ああ、頼むよ。俺がバカな事しないように見張ってくれ。」
「ああ、まずは明日学校だな。」