僕の10月14日
倉本に付き添ってもらって学校に行った。松葉杖の僕は注目を得た。普段は空気のような僕なのに、こんな時には注目されるんだと腹が立った。
倉本は精力的に学生課や教授にいろいろ話をして、欠席をレポートで免除してくれるように話を付けてくけた。
「倉本、お前話が旨いな。凄いよ。」
「ハハハ、そうなんだよ。俺さ、将来弁護士になろうと思ってさ。」
「えっ? お前商学部だろ?」
「昨年転籍したよ。今は法学部だ。司法試験の予備試験にも受かったから来年は司法試験を受けるよ。」
「はぁ~知らなかったよ。すげーな。倉本がそんな奴だとは思わなかった。」
「俺と友達だといいぞ。」
「ハハ、そうだな。ありがとう。倉本・・・ウッ・・・」
僕はまた涙が出た。倉本の気持ちが嬉しかった・・・僕の涙腺はどうも壊れてしまったみたいだ・・・そんな僕を倉本は優しい顔で背中をポンポンと叩いてくれた。
「石田、お前今度病院にはいつ行くんだ? リハビリとか通院はまだあるだろ。」
「明日リハビリで行く。2時からだ。」
「俺も連れてけ。」
「何で?」
「いいから。任せておけ。」
次の日、倉本は病院に付き添ってくれた。
僕がリハビリをしている間、倉本は病院中をフラフラしていたみたいだ。
「倉本、ここにいたのか。お待たせ。」
「なあ、循環器内科に行くぞ。」
「えっ? 何で?」
「いいから、ついてこい。」
倉本は俺を連れて循環器内科の入院棟のナースステーションに行った。
行きたくなかった。本当は行きたくなかった。なんかそこに行くと彼女がいるようだったから・・・
でも、倉本は僕を引っ張って行った。しかたなく僕は倉本の後からトボトボと付いて行った。
「あら、あなた・・・石田さん?」
「あっ、この前の看護婦さん。」
「今日はどうしたの?」
倉本が僕らの話に割って入った。
「あの、僕この石田の友人で倉本って言います。この石田は数日前まで何も食わずにすごい顔していて、挙句の果てには死ぬって騒いで、見ていられなかった。彼女の死がショックなのはわかるんです。でも一つ一つ何か区切りを付けて行かないと、石田は前に進めないと思うんです。それで看護婦さん、お願いがあります。あの、白石華菜さんの誕生日教えてください。個人情報保護で教えられないってことはわかっています。だから、僕の質問が正しければうなずいてくれればいいから・・・お願いします。」
倉本は看護婦さんに頭を下げて、泣いていた。僕はそれを見て驚いた。
― こいつ・・・僕の為に泣いてやがる・・・・・・
「看護婦さん・・・華菜さんの誕生日は10月14日ですよね。」
「・・・待っててね。ここじゃなんだからこの先の待合室で待ってて。」
看護婦さんは倉本の耳元でそう告げた。
10分位待っていた。
「おまたせしました。先ほどのご質問ですが、YESです。それとね、調べていて思い出したの。彼女が言っていた言葉・・・私は白いコスモスよ・・・って。」
「あー、やっぱり・・・ありがとうございました。」
「倉本さん、石田さんのことよろしくね。そして石田さん、辛いだろうけど彼女のことは良い思い出として前に向かってね。まあ、すぐには無理だろうけど・・・」
「ありがとうございました。」
看護婦さんに頭を下げ、二人は病院を後にした。
「なあ、石田・・・彼女はさ、白いコスモスの妖精だったんだよ。だからお前もさ、妖精に会えたんだってそれを喜んで次に進めよ。」
「まあなぁ~ 妖精か・・・ホント妖精みたいだったよ・・・妖精にキス位しておけばよかったな・・・」
「しなかったのか? お前らしいな・・・」
「全くだ。チャンスはあったんだけどな・・・。間接キスはした・・・それだけで喜んでいた・・・中学生・・・イャ小学生だな・・・」
「でもさ・・・しなくてよかったかもよ・・・」
「思い出が増えるだけだもんな・・・」