僕の10月14日
学生最後の夏休みだというのに、さえない夏休みだった。僕はレポートと卒論、それと既に遅いのだが就職について悩んでいた。いまだに決めていなかったのだ。
「なあ、倉本・・・俺はさ、どんな仕事があっていると思う?」
「こんな時期にその質問か? お前はどうしたいとかないの?」
「ないんだよ。ただ、実家の食堂を継ぐのはイャでそれで東京に出てきた。幸い実家は姉貴が継いでくれることになっている。俺はね正直どこか適当に勤めて、結婚して子供作って東京で生活すればいいと思ってた。」
「随分と短絡的というか・・・」
「ああ、あきれるだろ。お前とは正反対だ。お前は凄いよ、ちゃんと目標を定めて勉強して着々と進めている。」
「まあなー。俺も悩んだんだよ。でもあまり人に仕えるのは性に合わないと思ったんだ。自分一人で仕事出来るのがいいかなって・・・」
「他には何か考えた? 」
「会計士は真剣に考えた。でも数字ばかり見ているのもイャだと思ってきた。あとは企業診断士。これは企業がいい状況でなくなってからの仕事だろうから気分的に重いかなって。弁護士も変わりないかもしれないけど、法律があるからちょっと違うかなとかいろいろ考えて・・・まずは司法試験に受かり、とりあえず今は判事を目指すことにした。」
「判事か・・・すげーな。別世界だ。」
「お前だっていいところはいっぱいある。まじめなところ、優しいところ、人を疑わないところ、相手をイャな気分にさせないところかな。」
「へー、さすがに頭の中身や外見は関係ないんだな。」
「外見はそこそこだ。まあ、俺にはかわいく見えるけどな。それにお前やればできるはずなのに、やらないだけだよ。・・・なー、お前・・・会計士にならない?」
「会計士? 俺にできるか?」
「ああ、少し勉強して、公認会計士の資格を取ってどこか事務所に入ってそこでキャリアを積んでくれよ。俺さ、判事を数年やったら最終的には町弁になりたいんだよ。その時、一緒に事務所やってくれよ。俺は弁護士、お前は公認会計士。一緒に事務所やろうぜ。俺はさ・・・ずっとお前と一緒に居たいんだ。」
「お前、ホント俺のこと好きだな。」
「ああ、就職する会計事務所も俺が探してやる。どうだ?」
「そうだな。それでいいかな。」
「本当にいいのか? 少しは自分でも考えろよ。」
「いいよ。お前の方が俺のことわかっている気がしてる。」
「おいおい、人任せだな。」
「倉本、ありがとう。」
夏休みが終わり、学校にはたまに行った。リハビリもたまに行った。ギブスも取れたけどまだ痛いし不安だった。だから怪我する前にやっていた居酒屋のバイトには戻らなかった。倉本は仕事が早く、僕に会計事務所のアルバイトを探してくれて、そこに週3日通うことになった。そしてこの会計事務所は卒業したらそのまま雇ってくれるという。僕にとって倉本は神様だ。