一輪のバラード

「ここのお料理どれも美味しいですね。」

わたしがそう言うと、樋井さんは「ここは、僕らがよく来る和食屋さんなんです。気に入っていただけて良かったです。」と優しく微笑んだ。

わぁ、イケメンの微笑み。
これで落ちない女はいないな。

「わたしなんて、さっきから食べて飲んでばかりですよ。」
「どうぞ、たくさん食べてください。ひかりさん細いのに、見掛けに寄らずたくさん食べるんですね。」
「残したら勿体無いじゃないですか?」
「そうですね。残せば廃棄になってしまいますからね。」

樋井さんはそう言うと、「僕も食べよっ。」と言い、出汁巻玉子を箸で一つつまみ、自分の皿へと運んだ。

そして、それを半分にし、一つを口に運ぶと、「うん、美味しい。いつもの味です。」と言った。

「樋井さんは食べ慣れてるんですもんね。」
「でも、出汁巻玉子はたまにしか注文しないですよ。」
「、、、樋井さん、わたしが一人で食べてたから可哀想だと思って隣に来てくれたんですか?」

わたしがそう訊くと、樋井さんは「いいえ。僕は最初見た時からひかりさんとお話したいと思ってましたよ?」と言った。

「それはなぜ?」
「んー、一番自然体で、本音で話せそうだったからですかね。ちなみに、あまり大きな声では言えませんが、颯もひかりさん狙いだと思いますよ。」
「えっ?」
「桃華さんに捕まってしまって動けずに居ますが、さっきからこっちをチラチラ見てるんです。」

わたしは樋井さんの言葉に、一瞬だけ光平さんと桃華の方を見ると、確かに光平さんの視線はこちらに向いていた。

< 9 / 77 >

この作品をシェア

pagetop