訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。
『皆さま、本日は六条エアライン六百六十六便をご利用いただき、誠にありがとうございます。この便の機長は赤瀬永翔が担当いたします』
そのアナウンスを聞いた時、陽鞠の心臓が止まりそうになった。
まさかと思ったし、聞き間違いかと疑った。
『羽山空港への到着時刻は十三時三十六分を予定しております。皆さまどうぞごゆるりとお過ごしください』
だが、この甘めの低音ボイスは機械越しでもわかる。
間違いなく彼のものだ。
「……っ」
陽鞠の心臓がトクントクン、と速いテンポで鼓動する。
(どうして彼が……?)
これは想定外だった。だが冷静になってみれば何ら不思議なことではない。
当時から最年少の副操縦士でかなり優秀なパイロットだった彼が、大手のRALに引き抜かれているのはむしろ当然のことではないだろうか。
(また同じ職場になるなんて思っていなかった……でも、私のことなんか忘れているはず)
陽鞠にとってはたった一人の愛した男だが、彼にとっては一夜を共にしただけの女の一人に過ぎないのだろう。
この想いは三年前に捨て置いたはずだったのに、久々に声を聞くとどうしても疼いてしまう。
陽鞠は瞳を閉じ、これまでのことを反芻した。
瞼の裏によみがえるのは、今でも夢だったのではないかと錯覚してしまう出来事だった。