訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。
淪太郎は最初から陽鞠のことも叶空のこともどうでもよかった。
子どもを作れないから、シングルマザーになろうとしていた陽鞠の存在が都合が良かったのだ。
誰でもいいから子どもを産める女性が必要で、その子を跡取りにできれば何でも良かった。
「陽鞠、出て行きたいなら出て行ってもいいぞ」
「え……?」
「但し、親権は私だ。叶空は置いて行け」
「何を言い出すんですか!? 叶空は私の子です!!」
「それが嫌ならこの家に尽くすことだ」
そう吐き捨てると、淪太郎は踵を返して出て行ってしまった。
陽鞠はへなへなとその場にへたり込む。
(表向きは自分の息子にしたいくせに、息子としては愛せないというの? 一体叶空のことを何だと思っているの……?)
淪太郎にとって叶空は家を継ぐための道具でしかない。
そのことをはっきりと認識した。
(あの人は、人の心がないの……?)
「……まま?」
ハッと気づくと、叶空が心配そうに陽鞠を見つめていた。その姿を見て、陽鞠の目に涙が溢れる。
「叶空……!」
小さくて愛おしい息子をぎゅっと抱きしめる。
このままでは叶空が幸せになれない。一生この家に縛り付けられることになってしまう。
(この子を守れるのは、私だけ……!)
陽鞠は烙条家から逃げることを決意した。
何があっても叶空だけは絶対に守り抜くと心に誓った。