訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。
複雑な思いもあるが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
「芽衣、お願いしてもいい?」
《任せて!》
芽衣から話を通してくれて、そこからはスムーズだった。
リモートという形で面接を行い、すぐにでも働いて欲しいと言ってもらえた。
芽衣がエアウイングでは優秀なGSだったと太鼓判を押してくれたことも大きかった。
並行して東京で住む場所も探した。
空港近くで比較的安いアパートを借りることができた。
淪太郎に気づかれずに事を進めるのは難しいと思っていたが、淪太郎が陽鞠に何の興味も示さないため案外スムーズに進められた。
これだけ無関心なのに陽鞠と離婚しても叶空のことは手離さないつもりだというから、気が知れない。
「あの、淪太郎さん。お願いがあるんです」
秘密裏に準備を進め、いよいよ切り出した。
「親友が結婚することになったのでお祝いがしたいんです。一日だけでいいので、叶空と東京に行ってきても良いですか?」
「東京に? 一日くらい構わないが」
「本当ですか!? ありがとうございます! 前もって淪太郎さんの食事は用意しておきますから」
「当然だと思うが」
淪太郎のために食事を作るのもこれが最後だ。
淪太郎を見送ってから、陽鞠は急いで大きなスーツケースを携えて家を出た。
テーブルにはその日の夕食と記入済の離婚届を置いていった。