訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。


「水鏡さん、今日はもう上がって大丈夫ですよー」
「はい、ありがとうございます」


 あっという間に託児所のお迎えの時間になった。


「江本さんが丁寧に教えてくれてとても助かりました」
「えー、そんなぁ」


 嬉しそうにはにかむ由夏が素直でかわいいなぁと思った。
 他のスタッフにも挨拶しようとして、ある人物が通りかかったのが視線に入る。
 陽鞠は思わずドキッとした。


「きゃ〜!! 赤瀬キャプテンだぁ。会えるなんてラッキーすぎる〜!」


 由夏は瞳をハートマークにさせてきゃっきゃっとはしゃいでいる。


「江本さん知ってるんですか?」
「赤瀬キャプテンを知らない人はいないですよ〜。いいなぁ、由夏もCAだったらお近づきになれるのにぃ」
(江本さん、永翔さんのこと好きなのかな……?)


 自分はもう関係ない人間とは言え、何となく複雑に思ってしまった。


「……!」


 その時、永翔と目が合った。永翔は真っ直ぐに陽鞠を見つめていた。
 咄嗟に視線を逸らしてしまった。


「それじゃあ私はお先に失礼しますね。お疲れ様です」
「お疲れ様ですー」


 永翔の方を見ないようにして、足早に戻った。
 ロッカールームで着替えながら大きな溜息を吐く。


(どうしよう、ここで働いているとバレてしまった……)


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