訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。
車の中から思わず陽鞠は息を呑んでしまった。
淪太郎も面食らって声を震わせていた。
「お、お前が父親だと……?」
「そうだ。陽鞠と叶空は俺が守る」
そう言った永翔の手には記入済の離婚届があった。
いつの間に手に入れていたのだろうか。
淪太郎も取られていたことに全く気づかなかったらしく、あたふたと胸ポケットをまさぐっていた。
「烙条……東北で有名な烙条酒造か?」
永翔は淪太郎の名前を見ながら言った。烙条という珍しい苗字からすぐにピンときたようだ。
「烙条酒造さんならお世話になっているよ。いつもウチを使ってもらっているからな」
「何……?」
「RALでいうと貨物の運搬には使ってもらっているし、六条財閥が経営する飲食店でも多く使わせてもらっていたな」
「ろ、六条財閥……?」
六条の名前を聞いた途端、淪太郎は青ざめる。
「しかし今後烙条酒造との取引は考え直した方がいいと、社長と副社長に進言した方が良さそうだ」
「……!! 貴様、まさか六条の……!?」
「具体的な話はまたゆっくりしましょう。では、これは預かりますので」
永翔は離婚届をしまい、運転席に乗り込みすぐに発車した。
陽鞠が振り返って見た窓の外からは、顔面蒼白になり茫然と立ち尽くす淪太郎の姿があった。
これまでの威勢はどこへやら、抜け殻とはこのことだと思った。