訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。
それに結婚で失敗したからこそまた失敗するのではないかという不安もある。
永翔には嫌われたくない。
ダメになってしまうかもしれないなら、最初から離れた方がいい。
パイロットとGSという仕事の関係だけでよかった。
「陽鞠、人って誰しもどこかずるい一面があると思うよ。俺だってそうだ、今の状況なんて弱ってる陽鞠につけ込む気満々だろう?」
「でも、私は」
「陽鞠が結婚に前向きになれない気持ちはわかる。結婚できなくてもいい、陽鞠の傍にいさせて欲しい」
永翔はそっと陽鞠の手を取り、優しく握る。
「叶空くんの父親になれなくてもいいから、俺の傍にいてくれないか?」
「っ、どうして……そんなに優しいの?」
永翔程の立場にある者が、結婚できなくてもいいなんて。
永翔に似合う女性は他にたくさんいるはずだ。それでも永翔は陽鞠がいいと、溢れんばかりの愛を向ける。
「陽鞠だからだよ。好きな人には優しくしたいから」
「……っ」
こんなにも真っ直ぐに愛を伝えてくれて、本当は泣きたいくらいに嬉しかった。
「……少し考えさせてください」
「返事は急がない。それよりやらなきゃいけないことがあるだろうし」
そう言って永翔はあの離婚届を差し出してくれた。
「ありがとうございます」と受け取って見ると、淪太郎らしい几帳面な字でしっかりと書かれていた。