訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。


 伸び伸びとGSの業務に集中することができ、忘れかけていた仕事の感覚も徐々に戻ってきていた。
 トレーナーである由夏からは「水鏡さん覚えるの早すぎてもう教えることがないです〜」と言われたが、まだまだだと思っている。


「お気をつけていってらっしゃいませ」


 毎日笑顔でお客様の旅を見送れることがとても嬉しい。
 クレーム対応など時には面倒な方もいるが、それでも真摯にお客様と向き合っている時間が貴重なものだと感じられる。


「陽鞠、お疲れ様!」
「芽衣! このフライトだったのね」


 パリまでの便に搭乗する芽衣とばったり会った。
 カウンターでの業務も好きだが、搭乗ゲートでの業務は間近で飛行機を見送れることが魅力的だ。


「陽鞠はこの後どこに行く?」
「この後もゲートよ」
「じゃあ赤瀬さんに会えるかもね?」


 こそっと芽衣は耳打ちする。


「ちょっ、芽衣……!」
「うふふ、会えるといいね」


 そう笑って芽衣は行ってしまった。
 確かに次のゲートはローマからの便だ。永翔が乗っているかもしれない。


(だからって別に関係ないけど……!)


 いつも通り円滑な業務を行うだけ、そう言い聞かせるけれどふわふわしたような感覚が心にあることを隠し切れない。
 こんな態度ではダメだ、と自分を叱咤して次のゲートに向かった。

 広い空港内をたくさん歩き回らなければならないところがGSの大変なところでもある。


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