訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。
子育て中はヒールのある靴を履いていなかったため、最初は一日中パンプスを履く感覚を思い出すのが大変だった。
でも今はそれも慣れてきたところだ。
大きな旅客機が地上に降りてくるのが見える。
それを見た時、あの便を操縦しているのは永翔だと思った。
陽鞠は飛行機そのものに詳しいわけではない。でも何となくそう思ったのだ。
上手く説明はできないけれど、滑らかな着地を見た時にきっと永翔が操縦しているのだろうと思った。
(おかえりなさい)
陽鞠は心の中で呟き、ゲート業務を全うする。
考えないようにしていても、つい永翔のことを考えてしまう。
会えないかな? と期待してしまう。一瞬だけ顔が見られるだけでもよかった。
(運良く会えるなんてないよね)
この業務が終わったら叶空のお迎えの時刻だ。
引き継ぎの準備をしていた、その時。
「あ……」
ちょうど通りかかった彼に思わず目を奪われた。
機長の制服を凛々しく着こなしている永翔が副操縦士と思われる男性と並んで歩いてくる。
「……!」
永翔も陽鞠に気がついた。トクンと陽鞠の心臓が高鳴る。
ぺこりと会釈し、サッと通り過ぎようとしたらすれ違いざまに永翔が耳打ちした。
「後で時間使って」
「……っ」