訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。


 人目につきにくい場所まで移動したところで、意を決して話しかける。


「あのっ! 赤瀬、副操縦士」
「ん? なんだ、俺の名前知ってたのか」
「……あなたの名前を知らない社員はいないと思います」


 それは何も不思議なことではなく、むしろエアウイング社員の常識とも言えるレベルだ。
 だが永翔が陽鞠の名前を知っているのは謎でしかない。


「何故私のことをご存知なのですか?」
「そのネームプレートをいつもしているじゃないか」


 言われてそうだった、と当たり前のことに気づく。
 GSは全員フルネームの入ったネームプレートを付けるのが義務だ。外人のお客様にもわかるように、ローマ字も入っているから「ひまり」と読むことも一目でわかる。


「すまないね、彼女たちを交わす口実にしてしまって」
「いえ……」


 なるほど、それで如何にも親しそうに名前を呼ばれたのかと思った。名前を知っていたのもネームプレートをしていたから。
 だが「いつも」という言葉が引っかかった。何だか前から知っているような口ぶりに聞こえる。


「えっと、あの人たちのお誘いを断りたかったから、目についた私に話しかけたということですよね?」
「そうだけど、話しかけたのは君だったからだよ」
「え?」
「ずっと君とは話してみたいと思っていたからね――水鏡陽鞠さん」


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