訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。


 フルネームで名前を呼ばれ、胸の奥が熱くなるのがわかった。
 初めての感覚にドキドキが止まらない。


「それは、どういう……」
「この後、時間ある?」
「ありますけど……」
「じゃあ本当に食事をしないか? 巻き込んだお詫びに何でも奢るよ」


 何が起きているのか全く理解できなかった。
 遠くから見つめているだけだった人と食事に行くなんて。
 理解が追いつかないまま、気づいたらとある串焼き屋に訪れていた。


「ここの串焼き、すごく美味しくてよく来るんだ」


 無邪気に話す永翔は、想像していた姿とは少し違った。
 住む世界が違う王子様のように感じていたが、大衆向けの串焼き屋で美味しそうに串焼きを頬張る姿は親近感が持てる。


「どう?」
「すごく美味しいです」
「良かった!」


 くしゃっとした笑顔はとても可愛らしい。
 クールな姿しか知らなかったからギャップにときめいてしまう。


「あの、さっき言っていたことなんですけど……」


 おずおずと切り出すと、永翔はニッコリと優しい笑みを返した。


「君と話してみたかったってやつ?」
「は、はい」
「本当だよ。いつも君の丁寧な仕事ぶりには関心していたし、あの時とかすごかったなって」
「あの時?」
「ある女性が時計をなくしたって言ってきたことなかった?」
「ああ! ありました」


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