遣らずの雨 上
メイクは慣れていないから下手なのは
当然だけど、鋭い優子に泣いたことが
バレる方が嫌だった。


追求されても何も答えられないし、
酒向さんと宮川さんが付き合ってるという噂がある限り、本当のことを知らない
私はそのことを誰にも言うべきでは
ないと思っている



ホテルから2人が出てきた事は
見た人がいるなら事実だと思うし‥‥


考えたくないのに、部署は同じで、
会議だってこうして共に行うわけで、
避けては過ごせない日々に毎日
悩まされていた。



 


『2週間という短い期間でしたが、
 酒向君と一緒に名古屋支店で
 働けて幸せでした。
 ありがとうございます。』



今日で宮川さんとも最後か‥‥‥。


金曜日の夜、宮川さんとマーケティング
メンバーで仕事帰りに送別会を含めた
食事会を開くことになり、ワインが
美味しいイタリアンバルにやって来て
いた。


短かったようで、私にはとても長く
感じられた2週間でもあったな‥‥。



隣に座る酒向さんを見上げ、ニッコリと
微笑む宮川さんに部内から拍手が
送られると、酒向さんも宮川さんを
見下ろし同じように笑顔で拍手を
送っている


ホテルから2人が出てきた噂だけに
留まらず、食堂で楽しそうに食べる
姿や、仕事帰りのレストランや、
モーニングを食べる姿も目撃され、
公にはしないものの、周りは恋人だと
思わざるを得ない程だった。



そんな噂を聞くたびにまた悩み、
仕事に持ち込みたくないのに、
行くところ行くところで嫌でも耳に
2人のことが入ってきたのだ。



『明日から3連休ね。今日はとことん
 飲むわよ!』


「濱田さんの方がまた先に潰れるんじゃ
 ない?ちゃんと一緒に帰りなよ?」


『ん、そこら辺はなんとかなるから
 大丈夫。皐月も偶には飲んだら?
 飲めないわけじゃないでしょ?』


飲めないわけじゃないけれど、
心臓に負荷をあまりかけてはいけない
し、飲み過ぎると免疫抑制剤が上手く
効いてくれないと注意されたことがある


「じゃあ一杯だけ‥弱めのにする。」


お酒に詳しい優子が私の分を頼んで
くれて一口喉に流すと、久しぶりの
アルコールに体がすぐに熱く反応した



『なるべく乗り合いで行けよ。』


2時間ほどでお開きとなった食事会も、
お酒に溺れた人達から順番にタクシーに
乗り、同じ方向の人が同乗することに
なった。


私は一杯しか飲んでないから、
全然余裕で電車で帰れるから、酔った
人達を乗せる手伝いをしていると、
気付けば酒向さんと宮川さんと
3人になってしまったのだ。
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