資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました
「何があった」
「ただの兄弟喧嘩だ。下がっていい」
「兄弟喧嘩だ? お前らに限ってあり得ないだろ」
入れ違いに部屋に入ってきたレックスは疑っていたけれど、ユーリは承知のうえでそれで通すことにしたようだ。
「とにかく、今朝はここて朝食を摂る。お前に見られながらだと食が進まん。出てってくれ」
「私は貴方の護衛なのてすが、王子」
「思ってもないことを言うな。このまま、エナと過ごしたいと言ったんだ。出ろ」
(……言いたいことが分かるだけに、失礼すぎる顔だな)
「一体どうやったら、この女がこの男を籠絡できるんだ」とでも言いたげな――最早口に出して言っているのも同然の顔をして、レックスは渋々外に出てくれた。
「ああ、もちろんノアもだ」
名前が出なかったことに拗ねたみたいに、ぷうっと膨れるノアくんをユーリが抱き上げる。
レックスがジルに声を掛けてくれたのか、あっという間に朝食の準備がされ、逃げるように去っていく侍女たちは皆幽霊でも見たような表情だ。
でも、気を遣ってくれたのか、後はすぐに退出してくれたのを見て、ユーリが口を開く。
「……ノアと同じか。その能力のせいで受け入れられたどころか、国王が母君に手を付けた理由がそれなら、殺されても文句は言えないな」
「……エインは、しないと思う」
成功するかは別にして、そのつもりなら今までもその機会はあっただろう。
さすがに、私に教えてくれたりしないはず。
「だが、それなら、エインを城に入れたらどうなるか想像はついたはずだ。ノアが成長するまでの時間が惜しいのか、余程未来が気になるのか……いや、エインに未来を予知する素振りはなかった。もし、そうだったなら、あの時お前を庇いに現れたんじゃないか」
「あ……じゃあ」
確かに、これまでもそんな感じには見えなかった。
もちろん、隠していた可能性もあるけれど。
「命を狙われる危険と比べても、欲しい能力なのか。……酷いな。それが何なのか、知りたくなくなる」
「……うん」
まだ決まったわけじゃないけど、これではあんまりエインが可哀想だ。
ノアくんまで狙われていると思うとゾッとして、スープと格闘しているノアくんの手に触れた。
「無茶はするなよ。あの襲撃の目的も、まだ分かってないんだ」
「ユーリこそ」
何としても、ノアくんとユーリを守らなくちゃ。
たとえ私の意識がここから失くなったとしても、この二人を離れ離れにしてはいけない。
(……馬鹿)
「たとえ」じゃない。
確実に、私の意識はここにはいられない。
それはもう、決まっていることなのに。
「どうした」
「ううん。今日は何してノアくんと遊ぼうか、考えただけ」
こんな時に、怪しかったかな。
でも、できるだけ間を置かずに答えてしまわなくてはと思った。
「気をつけろよ。それに、あまり変なことはするな」
「私は、ごく普通にしてるつもりなんだけど」
よかった。笑ってくれた。
そう胸を撫で下ろした時、ユーリが席を経ってノアくんの頭を撫でた。
「俺はもう行く。……ノア、母様を頼んだぞ」
『ノアを頼む』
ほんの少し前は、私が頼まれたのに。
それで、合ってるのに。
「はい、とと」
(……ダメだ。一度緩んだら、涙腺戻らない)
「いい返事だ。頼りにしている」
抱っこの「はい」じゃない。
真剣に父を見るノアくんの眼差しも、それに目を見張った後に見せたユーリの笑顔も。
二人に出逢えて、この瞬間に立ち会えた私は幸せだ。
(……誰だろうと、絶対に壊させない)
――その為に、私は来たんだ。