資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました
(何か、突破口になるものがあればいいんだけど)
ユーリが部屋を出てしばらくすると、そう考え続けるのにも飽きてきた。
この部屋に閉じこもっていれば、どうしたって得られる情報は限られる。
誰にも会わないのだから、当たり前だ。
(さすがに、今日はもうエインも来ないだろうし……)
「エナ様、お茶でもお持ちしましょうか? 何か甘いものでも召し上がれば、少しご気分も良くなるかも」
「ありがとう、ジル。いつも用意してくれるものはどれも美味しいから、有り難いわ」
「それはよかったです。厨房にも伝えておきますね」
いつも当たり前のように準備してくれるけど、本当に甘いものって癒される。
あんなことがあって、余計に神経も尖らせないといけないだろうし、一度お礼を言えたらいいんだけど――……。
「……エナ様? あの……」
「ジル。お願いがあるんだけど」
・・・
「頼むから、楽に護衛させてくれ」
レックスは不平を言ったけど、ノアくんはお出掛けにご機嫌だ。
「息が詰まるの。ちょっとくらいお散歩させて」
「お散歩だけで済むんですかね、奥方様。厨房に未来のお妃様が現れるなんざ、城内大混乱だ」
それは申し訳ないけど。
私にもノアくんにも、少しくらい気分転換をさせてほしい。
「いろいろ思うところがあるのに、付き合ってくれてありがとう」
「職務ですから、お気になさらず」
せめて、口は出さずにはいられないんだろう。
それもそうだと思うから、それは甘んじて受けることにする。
「ははしゃ」
そんなレックスから庇おうとしてくれたのか、ノアくんが前に出てバッと両腕を広げる。
(……なんて可愛いの……。これだけでもう、本当に幸せ)
本来、私の幸せじゃないことは分かってる。
ユーリが何て言ってくれたとしても、その事実は変わらない。
エナのものだ。
(……ごめんなさい。もう少し、この幸せに浸らせて)
「邪魔になったらいけないから、もしご迷惑でなければ、遠くから見せてもらいましょうね」
出来上がったものはもちろん素晴らしいんだけど、作っている時の甘い香りを感じたい。
勝手かもしれないけど、作っているところを見るのはノアくんにも刺激になっていいんじゃないだろうか。
王族に必要ないって叱られそうではあるけど。
「……っ、エナ様、申し訳ありません。生憎、いつも作っている者が不在にしておりまして。今日は簡単なものしかお出しできないかと……本当に申し訳ありません……!! 」
「え? いえいえ、そんな。いつもありがとう。ゆっくり休むように伝えて。あ、でも、もしよかったら……」
少しだけ、キッチンお借りしたいなぁなんて、ダメだよね、やっぱり。
「……あの、もしよかったら、私がやってみてもよろしいでしょうか? エナ様にお出しするような代物ではないかもしれませんが。それにその、よければエナ様も……」
「ジル……ありがとう。でも、ジルに迷惑が掛かるんじゃ」
「いいえ。エナ様は、私の恩人です。これくらいさせてください」
いつもお世話になってるのは、私の方なのに。
うるうると目を潤ませて見つめ合う私たちに、周りはあんぐりと大口を開け、レックスは何も聞いてないとばかりに視線を床に遣って。
ノアくんは嬉しそうに、両腕をバンザイしてくれた。