資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました



・・・



「父様に会えたのに、なぜお前は不機嫌になる……」


むくれたノアくんを抱っこして歩きながら、ユーリはそう嘆いたけど。


「…… “めっ” も出ないほど、お怒りね。でも、抱っこさせてくれるだけいいかも」


ユーリは甘い。
抱っこを強請られても、今のところまず断ったりしないし。
ブツブツ言いながら、嬉しそうですらある。
それに、ノアくんの視線を感じながら、キスを続けようとしたのは「とと」の方なのだから、仕方ない面もある。


「今日も散歩だろうと思っていたが。……ああ、そうか。この絵本にも飽きたか。書庫に行くのは、エナにもいいかもしれないな。異国の書物もそれなりに置いてある」


まるでレックスに聞かせるように言ったけれど、逆効果になりはしないかとヒヤヒヤする。
レックスは私のことを疑っている――というより、別人だと確信しているようだった。
ただ、中身だけ別人になったという、あり得ない発想に至らないだけだ。
何かのきっかけでそれがバレた時、レックスはどうするんだろう。
ユーリの為に黙っていてくれるか――いや、ユーリの為を思って告発するに決まっているし、彼の立場ではそれが正しい。


「だが、護衛はともかく、書庫の案内にはこの男は向いていない。なぜ、俺に声を掛けてくれないんだ」

「……あなたが仕事中だからよ。レックスは、付き合うのが仕事だから着いてきてくれるだけ」

「仕方なく付き合ってると知ってるんなら、部屋で大人しくしてくれると楽なんだが」


ノアくんが新しい本を読みたがって、今借りているものを返却したい旨をそれとなくジルに伝えてみたが、聞けば、書庫は誰にでも入室できるものではないらしい。
最初に持ってきてくれたものも、ユーリから頼まれたものだと知って、内心ギクッとしながらもどうにかごまかした。
そうなると、レックスに頼むくらいしかないではないか。


「それなら、今日はもういい。ノアが本を見繕ったら、俺が部屋に送る」

「……一応外にはいる。扉は全部閉めるなよ」


いったん開いた口を閉じて、そう言うに留めたらしい。
わざとらしい間にもユーリは気づいたはずだけれど、どうやら無視することに決めたようだ。


「上手くやり過ごせたようだな。まったく、いい度胸だ」

「ないわよ、そんなの……。でも、動揺したら一発でバレるじゃない」

「まあな。つまり、妃に向いているということだ」


入口は然程大きくはなかったが、どこまでも続くような奥行きが、びっしりと本で埋め尽くされている。
ドアを開けてすぐの場所には児童書や何かのテキストらしいものもたくさんあるけれど、奥には何やら見覚えのない文字の本が並べられている。
いや、もしかしたらちゃんと見れば、前回のように読めてしまうのかも。
異世界特有の文字なのか、それともこの国独自の言語なのかは、残念ながら私には判別できない。


「それにしても、エナが外国語に堪能だなんて。教えてくれたらよかったのに。いや、知ってたからって急には難しいけど……せめて、その場を取り繕えるくらいには勉強しておかないと。ユーリも詳しいのよね? よかったら、今度……」

「お前、この本が読めるか」


話と視界を遮って目の前に出されたのは、いつかノアくんが読んでいた絵本だ。


「失礼ね。さすがに、こんなに字も大きい絵本くらいは読める……それも不思議なんだけと、なぜか読めるのよ」

「そうではない」


やや目を丸めたような、それでいて納得したというようなユーリを見て、私はいっそう混乱した。


「これは、この国の言葉ではない。隣国のものだが、ノアが好きなんだ。楽しんで学べるなら、それに越したことはないから。その国の出身であるジルに頼む時は、いつも渡している」

「そんな……私には、違いが分からないくらいよ」

「すぐにお前が偽物だと騒がなかったのは、そういう理由もある。お前は怪しいことこの上なかったが、要所要所ではエナの知識を押さえてきた。ま、騒ごうにもそれほど信頼できる人物もいないし、あの時は、お前を罪に問うよりも利用する方がいいと思ったわけだが」


―― 一体、どういうことなの。




< 43 / 48 >

この作品をシェア

pagetop