獅子の皮を被った子猫の逃走劇
 私が初めてこの場に来た時には本当にびっくりした。

 私の中のヤンキーのイメージは、憂さ晴らしや快楽のためにひたすら喧嘩しまくる、みたいな感じだった。

 けれど、実際は違うらしい。

 その派閥の流儀というものがちゃんとあるんだって。

 一ノ瀬先輩曰く、うちはお利口さんばっかりだから"強い人には"ちゃんと従うんだよー、だと。

 お利口さんとは……?となったが、正々堂々とタイマン張るのは偉いことらしい。
 ヤンキー社会はよく分からない。

 それと、あともう一つ。

 龍ヶ崎には因縁の敵がいるのだと。

 それは隣の地区の学校で、名前を虎月(とらづき)。
 私風に分類するのであれば、虎月は悪いヤンキーの溜まり場だそうだ。

 龍ヶ崎の数倍も競争心が激しく、仲間同士でも裏切りが横行しているような……そんな危険な人たちらしい。

 ……絶対に関わりたくない。

 そんな虎月と龍ヶ崎はもう何十年も争っている。
 虎月がどうして龍ヶ崎を目の敵にしているのか、というのは誰も知らないらしい。


 「え、それ限定品のお菓子じゃないですか?」
 「ふふ、獅音くんは気づくと思ったよ。來斗が持ってきてくれたんだ」
 「ええ!即完売って評判なのにすごい!」
 「……食べたいならどーぞ」
 「ウチも食べるー!!」


 平和なのがいちばん。

 たわいも無い話で盛り上がるこの平和な時間が、いつまでも続きますように、と私は願っていた。
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