アオハル・サーキュレーター




「『ほら、そうやってすぐ死ぬ。』、『劇団『自作自演』』、そして『鎖骨を噛む。』。これらはキミが『椎名晴』というペンネームを使って書いたもの、そうだね?」


「もう10年近くも前に書いた、ケータイ小説……」


「あれらは、そこそこ人気だったよね、当時。まあ、人気といってもミステリー・サスペンスのランキングで1位を獲ったことがあるくらいの人気だったけどね。ボクは当時、あれを読んでとても気持ち悪いと思った。恐ろしくもあった。同じ人間であるはずなのに、こんな非人道的な、いや、キミがよく使っていた『サイコパス』という表現が一番ぴったりだね。そんなサイコパスをさらけ出せる人間がいるのかってね。同時にボクはキミに興味を持った。あれから10年近く、ボクはキミを追い求めていたんだ。SNSだって見ていたし、そこでキミがどんなことをやっていて、どの辺りに住んでいて、とにかくそういう全部を知るために、ボクはずっとキミのことを見ていた。『Kの正体』って小説。そこでキミはあの3部作に登場する『K』の正体を過去に書いた小説、『今治』の主人公の『幸田慎平』に結び付けた。それすらも紛れもなく、偽名だってことはすぐにわかったよ。まあ、本名までさらけ出す作家なんて、いないからね。それに都合もよかった。キミは『K』というただただ無機質なアルファベットを広げて、あんな壮大な物語を書いたんだ。まるで伏線を張っていましたと言わんばかりにね。でも、それを書き終えた瞬間。キミは腑抜けになってしまった。あの後もちょくちょく小説を書いては消し、書いては消しを繰り返す数年。書き上げた作品も、どこかやっぱり腑抜けていたり、意味の分からない短編をただただ集めただけの代物。一読者としてボクは、それがとてももどかしかった。キミにはずっと書き続けて欲しかったんだ。病気して大変だったとしても、交流型のアバターアプリにどっぷりハマっていたとしても。ボクはキミの作品を読んでいたかった。でも、キミはあの三部作のような話は二度と書かなかった」


「そこまで知っていて、何が言いたいんだ?」


「書いてほしいんだ。キミには、ここ数日あったことを。アオイであって、ハルでもあるキミにね。こんな設定、壮大な現実があれば、キミは絶対に書けるんだよ。だって、『ほら、そうやってすぐ死ぬ。』だって、入院中に出会った女の子がモデルだって言ってたじゃないか。そういう現実の中にある、非現実的なものよりの現実をキミはいつだって題材にしていたんだから。こんな裏稼業のストーリーがあれば、書けるだろう? あんな交流型アバターアプリのボイスチャットなんかでネタなんか集まらないんだよ。あそこはボクも出入りしているけれど、ろくな人間がいないからね。いや、ろくな人間というのは、キミのいうサイコパス的な人間って意味であって、実際、キミの周りにいる人はみんないい人ばかりだよ。でも、それじゃキミは満たされないんだ、そんなことじゃキミの中にある、深い衝動や汚れてしまっている心は満たされないんだよ。キミは、血が見たい人間だ。人が死ぬところを見たい人間だ。人が何かに絶望する姿を見ていたい人間だ。大勢の人が不慮の事故で一瞬で死んでしまうような、そういう現実の中に、非現実的なものよりの現実を見たい人間なんだよ。見たい、見たい、見たい、見たい! 書きたい! そうだろう? キミはそういう人間なんだよ」



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