アオハル・サーキュレーター




「薄々感づいてはいたけれど、お前は、俺か?」


「ボクはキミの分身さ。みんなが知らないキミを唯一知る人間さ」


「いいや、違う。お前は何もわかってない。俺が小説を書かなくなった……いや、書けなくなったのは俺にその気がなかったからだ。もう、ね、満たされちゃったんだよ。アバターアプリで本当に仲良くしてくれる人たちと一緒に笑って過ごしていた。現実でも仕事にひたむきにいたい。休みの日は釣りに行ったり、旅行に行ったりしていたい。好きな女の子と毎晩のようにお話していたい。酒を飲んで、タバコを吸って、面白おかしく周りから『おじさん』とか、『酒飲みヤニカスライバー』とか、いじられたり、逆にいじったりなんかもして、過ごしていたい。そこには、お前の言うような衝動や汚れてしまっている心なんてない。そういう人間に俺は生まれ変わったんだよ。だから、もう出てこないで欲しい。邪魔しないで欲しい。俺は、俺であって、お前はもう、いない。俺の中に、お前はもういないんだよ」


「……そうかい。残念だよ、キミ。キミは本当に残念な人間に成り下がってしまったね。キミはボクの正体に気づいた。それなのに、キミはボクを否定するんだ。あ、もしかして、嘘をついたからかい? ボクがさっき話した話。小学3年生の頃の話さ。あれは本当は殴ったんじゃない。そして、停学どころか……」


「もうやめてくれ! 解放してくれ。お前という呪縛から、この俺を解放してくれないか。もう、いなくなってくれよ」


「やめない。いなくならない。ただただ無機質なアルファベット『A』で呼ばれていたボクはキミからいなくならない。キミはいつかまたボクになる。循環して、循環して、キミはまたボクになる。そして、ボクになったキミは、あの時よりももっと壮大で、残虐なことをするんだ。そして今度はペンネームなんかじゃなくて、『アオイ』なんて小説の名前でも、『ハル』なんて取り繕った名前でもなく、本当の名前で呼ばれるようになるんだ。本当の名前で、この世界に生まれてきた証を、このクソみたいな社会に刻むんだよ。そして、この世界で生きる多くの人間の心の中で生き続けることになるんだ。キミとボクが死んだ後の世界でも、ずっと。ボクはその循環を手助けするためのサーキュレーターを置いたに過ぎない。それに薄々勘づいていると思うけど、そのロープだって、キミとボクの世界でしかないものなんだから、キミが消したいと思えばいつでも消せるよ」



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