【電子書籍化】初夜に「きみを愛すことはできない」と言われたので、こちらから押し倒してみました。 〜妖精姫は、獣人王子のつがいになりたい〜
 艶めいたカミルの囁きに負けないよう声をあげると、彼は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、移動しようか」

 そう言ってカミルはルフィナの身体を抱き上げる。しっかりと抱きしめられているから怖くはないけれど、急に視界が変わって思わず彼の首に抱きつくと、カミルはもっと嬉しそうに笑った。

「やっぱりここじゃあ落ち着かないからね。俺たちの寝室に行こう」

「……はい」

 抱き上げられているのでカミルとの距離が近いことが妙に気恥ずかしい。これから彼に抱かれるというのに、耐えられるだろうか。

「それにね、こんな無防備な格好で、しかも一人で城の廊下を歩くなんて、ありえない。誰かに見られたらどうするんだ」

 少し怒ったような口調で、カミルがこつんと額をぶつけてくる。軽くにらんだその表情は、怒っているのに優しい。

「だ、誰にも会わなかったです」

 慌てて首を振ると、カミルはにこりと笑った。だけどまだどこか機嫌が悪そうだ。

「それは良かった。誰かにルフィナのこんな姿を見られていたら、俺はそいつを許せなくなる。きみの無防備な姿を見ていいのは、俺だけだ」

「……っ」

 執着を感じさせるカミルの言葉に、鼓動がどんどん速くなっていく。真っ赤になっているであろう頬に掠めるようなキスをひとつ落とすと、カミルはゆっくりと歩き出した。
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