【電子書籍化】初夜に「きみを愛すことはできない」と言われたので、こちらから押し倒してみました。 〜妖精姫は、獣人王子のつがいになりたい〜
「年も近いし家柄も申し分ないだろうということで、一時は話が本格的になりかけたこともあった。もちろん、婚約はしていないが」

 忙しなく唇を舐めながら、カミルはルフィナの手を握りしめる。

「それなりに交流はあったが、俺はサラハがどうにも苦手で婚約は考えられなかった。だがあいつは、いつか俺の妃になれると思い込んでいたんだろう。自分が納まるはずだった場所にルフィナが入り込んだと、妃の座を奪われたと思ったのかもしれない」

「そうだったんですか……。きっとサラハは私に、カミル様と親しいことを印象づけようとしたのでしょうね」

 自分の方がカミルのことをよく知っているのだとアピールするような言動は、そのためだったのだろう。ルフィナは納得してうなずく。彼女は、ルフィナよりも自分こそが妃に相応しいのだと思っていたに違いない。

「俺のせいでルフィナを傷つけた。もっと俺が気をつけていれば……。すまない、ルフィナ」

 握った手を微かに震わせて、カミルはため息をつく。ルフィナは首を振って彼を抱き寄せた。

「私、見た目の印象から気が弱いと思われがちなんです。きっとサラハも、私が黙って身を引くと思ったんだと思います。だけど私、案外芯は強いんですよ。涙をのんで立ち去るような真似は、絶対にしません。事実こうして、抱いてくださいってカミル様のお部屋に突撃しちゃいましたし」

 笑いながらそう告げると、カミルも小さく笑ってうなずいた。

「そんなルフィナが、俺は好きだけどな。最初に会った時から思ったよ、きみは見た目通りの儚い妖精姫なんかじゃない、すごく心の強い人だって」
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