【電子書籍化】初夜に「きみを愛すことはできない」と言われたので、こちらから押し倒してみました。 〜妖精姫は、獣人王子のつがいになりたい〜

本当に愛されているのはどっち?

 あふれ出す涙を乱暴に拭いながら、ルフィナは足早に自室へと向かっていた。
 こんなにも涙が止まらないなんて、らしくない。いつだって笑顔でいようと心がけていたのに。
 思った以上に自分はカミルのことが好きなのだと、ルフィナは自覚した。彼に関することだと、平静でいられない。 


 部屋に戻ったルフィナは、冷たい水で顔を洗って涙を洗い流した。まだ少し目は赤いけれど、酷い泣き顔は改善したはずだ。イライーダはどこかへ行っているらしく不在で、そのことに少し安心する。きっとこんな顔を見られたら、心配させてしまう。

 兄のヴァルラムに何を言われても、何をされても、母親が昏睡状態になった時でさえ、ルフィナは本気で泣いたことはなかった。流した涙は全て、従順で気弱な小娘を演じるためのものだったから。

「初めてかもしれないわね、こんなに泣いたのって」

 冷やしたタオルで目を押さえながら、ルフィナはぽつりとつぶやいた。
 その時、部屋のドアが小さくノックされた。いつも対応してくれるイライーダは不在なので、ルフィナ自身がドアへと向かう。
 開いたドアの向こうには、サラハが立っていた。

「ごきげんよう、ルフィナ様」

「あ……、お約束は今日だったかしら」

 そういえば、今日は閨授業の日だったとルフィナは思い出す。朝にカミルからお茶会に誘われたので、断りの連絡を入れようと思って忘れていた。

「ルフィナ様、もしかして泣いてらしたの? 目が少し赤くなっていますわ」
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