今夜、上司と不倫します  不倫したら一億円もらえるって本当ですか!?
 それより、早く彼を落とさないといけないのに、なにも進んでない。
 期限は言われていないが、奥様は余命を宣告されているのだ、悠長にしていられないだろう。

 どうしたらいいんだろう。
 亜都は切なく胸を押さえた。



 一緒に食事をしたせいか、怜也はすっかり亜都に気を許したようだった。
 恭平はなぜか亜都を怜也のコーヒー要員にしていた。
 怜也が亜都を見るたびに癒されると言っていたから、怜也の休憩のために亜都を利用しているのだろうと推測していた。

 顔を見るたびに吹き出すことはなくなったが、今度はにっこりとさわやかな微笑を見せてくれるようになり、亜都の心臓はそのたびに大きく跳ねた。

 亜都に慣れたらしい怜也にジョークで笑わせられ、彼女はコーヒーを零して恭平に怒られた。
 悔しくて亜都からもジョークを言って怜也を笑わせたら、笑わせ合戦みたいになって恭平にふたりとも怒られた。
 そっと怜也を見ると彼も自分を見ていて一緒にふふっと笑ってしまい、さらに恭平に怒られた。

 気が付けば彼のことばかり考えるようになっていた。
 彼はすでに結婚しているのに。
 思い出す度、亜都は暗く冷たい谷底に突き落とされる。

 好きになってしまった彼を、お金のために誘惑しなくてはならない。
 彼だけではなく自分の恋心への裏切りでもあるように思えて、なかなか一歩を踏み出すことなどできなかった。

 仕事を終えた亜都は暗くなった夜道をとぼとぼと自分のアパートに向かう。
 月は雲に隠れていて、外灯も切れたアパートの階段はただただ暗くて危なかった。
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