あやめお嬢様はガンコ者
ーーーSide.久瀬---
(キレイさっぱりなかったことに、か。どうするつもりなんだろう?)
あやめさんを自宅まで送り届けたあと、俺はタクシーの中で物思いにふけっていた。
それにしても色々面白すぎたと、彼女のセリフを一つ一つ思い出す。
(私の素性を隠していたことからお詫びいたしますって言ってたな。あやめさん、ほんとに気づいてないんだ。俺達みんな、あやめさんが社長令嬢だって知ってること)
もちろん社長もあやめさんも、そのことを公言してはいない。
けれど俺の周りの社員は皆、確信していた。
名字が同じということもあるが、何よりもあやめさんは品の良さが際立っている。
隠そうにも隠しきれないお嬢様の雰囲気や立ち居振る舞いの美しさは、本人の自覚とは関係なく周りと一線を画していた。
(あやめさんは隠しているつもりだから、俺達も敢えて知らないふりをしてるけど。なんで自分は『小泉さん』じゃなく『あやめさん』ってみんなに呼ばれてるのか、気にならないのかな?)
小泉さんと呼べば社長を呼んでいるようで気が引けるし、あやめさんが社長令嬢だということを意識してしまうからと、皆は申し合わせたように「あやめさん」と呼んでいた。
俺の知る限り、あやめさんが社長令嬢だと気づいていない社員は、あやめさんの向かいのデスクの東由香里くらいだ。
俺の同期で同じ26歳の東は、天然キャラゆえに何も疑ってはいない。
ひょっとしたら、あやめさんの名字が社長と同じだということも忘れているのかもしれなかった。
あやめさんと東が仲良さそうに話しているのを、俺は社内のカフェテリアやラウンジでよく見かけていた。
恐らくあやめさんにとって東は、心を許して何でも話せる仲のようだが、それでも東に伝えていないということは、やはり誰にも社長令嬢だということを話すつもりはないのだろう。
(今日初めて俺にバレたと思ってるんだろうな。それなら、今後会社でも今まで通り振る舞うしかないか)
それにしても、と彼女の数々のセリフが頭の中に蘇る。
(何だっけ?俺のこと、若さ弾ける我が社のアイドルMR、とか言ってたな。あー、恥ずかしい。あとは何だ?過去6回のお見合いを破談にしてきた経験と実績をもとに、今回も妙案をなひねり出してみせる、とか何とか)
至って真面目な口調で丁寧にそう言われ、うつむいて必死に笑いを堪えたの思い出す。
しかもそれを、足がしびれたと勘違いされるとは。
(面白いよな、あやめさんって。東とは違う天然さ)
それに、と俺は桜の木の下に佇んでいたあやめさんの姿を思い出す。
(さすがは生粋のお嬢様、着物がよく似合ってた。清楚で控え目で、俺が手を貸したら恥ずかしそうにちょこんと手を重ねてきて)
そんな具合では手を貸した意味がないとキュッと手を握ると、途端に頬を赤く染めてうつむいたあやめさんは、年上なのに可愛らしかった。
(どうなるんだろ、このお見合い)
思わず真剣に考え込む。
(キレイさっぱりなかったことに、か。どうするつもりなんだろう?)
あやめさんを自宅まで送り届けたあと、俺はタクシーの中で物思いにふけっていた。
それにしても色々面白すぎたと、彼女のセリフを一つ一つ思い出す。
(私の素性を隠していたことからお詫びいたしますって言ってたな。あやめさん、ほんとに気づいてないんだ。俺達みんな、あやめさんが社長令嬢だって知ってること)
もちろん社長もあやめさんも、そのことを公言してはいない。
けれど俺の周りの社員は皆、確信していた。
名字が同じということもあるが、何よりもあやめさんは品の良さが際立っている。
隠そうにも隠しきれないお嬢様の雰囲気や立ち居振る舞いの美しさは、本人の自覚とは関係なく周りと一線を画していた。
(あやめさんは隠しているつもりだから、俺達も敢えて知らないふりをしてるけど。なんで自分は『小泉さん』じゃなく『あやめさん』ってみんなに呼ばれてるのか、気にならないのかな?)
小泉さんと呼べば社長を呼んでいるようで気が引けるし、あやめさんが社長令嬢だということを意識してしまうからと、皆は申し合わせたように「あやめさん」と呼んでいた。
俺の知る限り、あやめさんが社長令嬢だと気づいていない社員は、あやめさんの向かいのデスクの東由香里くらいだ。
俺の同期で同じ26歳の東は、天然キャラゆえに何も疑ってはいない。
ひょっとしたら、あやめさんの名字が社長と同じだということも忘れているのかもしれなかった。
あやめさんと東が仲良さそうに話しているのを、俺は社内のカフェテリアやラウンジでよく見かけていた。
恐らくあやめさんにとって東は、心を許して何でも話せる仲のようだが、それでも東に伝えていないということは、やはり誰にも社長令嬢だということを話すつもりはないのだろう。
(今日初めて俺にバレたと思ってるんだろうな。それなら、今後会社でも今まで通り振る舞うしかないか)
それにしても、と彼女の数々のセリフが頭の中に蘇る。
(何だっけ?俺のこと、若さ弾ける我が社のアイドルMR、とか言ってたな。あー、恥ずかしい。あとは何だ?過去6回のお見合いを破談にしてきた経験と実績をもとに、今回も妙案をなひねり出してみせる、とか何とか)
至って真面目な口調で丁寧にそう言われ、うつむいて必死に笑いを堪えたの思い出す。
しかもそれを、足がしびれたと勘違いされるとは。
(面白いよな、あやめさんって。東とは違う天然さ)
それに、と俺は桜の木の下に佇んでいたあやめさんの姿を思い出す。
(さすがは生粋のお嬢様、着物がよく似合ってた。清楚で控え目で、俺が手を貸したら恥ずかしそうにちょこんと手を重ねてきて)
そんな具合では手を貸した意味がないとキュッと手を握ると、途端に頬を赤く染めてうつむいたあやめさんは、年上なのに可愛らしかった。
(どうなるんだろ、このお見合い)
思わず真剣に考え込む。