(二)この世界ごと愛したい
場所だけでは王様は動くに動けない。
だから私の偽りの負傷情報と、この地で決戦に挑むと言う嘘。
「傷を負った私を捕らえようとする総司令さんを、王様は許せなかったんだね。」
「…恐ろしい考えやな。」
自国の民同士が殺し合う戦が、静かに幕を開けた。
それをおーちゃんと眺めながら、私はやっぱりいつかと同じことを考えてしまう。
「私の都合の良い身勝手な正義は、いつも誰かを守れない。」
「……。」
「…だから、おーちゃんは格好良いんだよ。いつまでも格好良い正義のヒーローであり続けてね。」
私とは違う。
真似が出来るわけでもない。目指せもしない。
人を傷付けない。そんな綺麗で強い正義の在り方に、本当はどこかで心底憧れていたのかもしれない。
「俺は戦も戦する奴も好きちゃうけど。今こうしてちゃんと人を思い遣るお嬢をもう頭から否定はせん。」
「…え?」
「今回は、何を守りたかったん?」
「っ…!」
何を守りたかったのか。
それは、この先に待つシオンとトキの未来だったり。無慈悲に私へ放たれる追手の方々だったり。エゼルタ国そのものだったり。
守るにしては重すぎる。これから守りたい、まだ守れてもいないものへ繋がる道だった。
「買い被りすぎだよ。この戦では、私は何も守れない。自分の私欲のために兵を使う総司令さんとユイ姫さんに頭に来たから。」
「つまり見ず知らずの兵を無駄に傷付けたくないって、お嬢が守ったんやな。」
「…それは都合が良すぎる解釈です。」
「ええやん、未来の兵も助けたことになるんやし。やっぱお嬢は優しいな。」