(二)この世界ごと愛したい
こうして自分で送ることにしたカイ。
ママはそのやり取りを聞いて、くすくすと楽しそうに笑うだけ。
「…色々、大丈夫なん?」
「主人が戦死したことですか?」
森の中を二人で歩くのは、何十年ぶりか。
二人は同じ懐かしさを感じながら、パパの死について話始める。
「ああ。」
「…あの時は、ハルは伏せっていましたし。幼いアルをただ守ることに必死で…。」
「今となってはお嬢は帰って来て自由になったけど、当時は…辛かったやろ。」
「主人を失い、娘を手放す選択をした私を責める者は居ませんでした。悲しみに浸って、私は無責任に泣くことしか出来なくて。」
それはそうだ。
最愛の伴侶を失った悲しみは、想像を絶する痛みだろう。
「…なのに、リンは私の前では泣かないんです。」
「……。」
「ハルが目覚めた時に言われました。誰よりも痛いのはリンだから、その優しさを利用するなって。あれは私に向けたハルからの叱責だったんだと思います。」
「…ランも充分痛かったやろ。」
カイがパパとママがどれだけ愛し合っていたか、その目で見て来た。
ママがどれ程パパを好きだったか、胸が引き裂かれるくらい知っていた。
「痛いです。今でも寂しいです。会いたくて会いたくて…死んでしまいたい時もあります。」
「…そうやな。」
「それでも私は、子供達と国を…託されたので。もう泣きません。命の限り見届けて、胸を張ってあの人に会いに行きたいので。」
「…ランは強なったな。」