(二)この世界ごと愛したい
だけど、この人をやはり好きになれない。
アキトとトキが驚く間もないスピードで私を剣を抜き、切先をこの人に向ける。
「次はないって言ったばっかりなんだけど。」
「…今日はとことん貴女を怒らせる日だ。」
「怒らせてるのが自分だって気付いてるよね?」
「不本意ですけどね。」
不本意で私に剣を抜かせるまで怒らせることが、本当に凄いことだ。
「戦国っぽくなくて言いたくなかったけど、私がシオン将軍が嫌いな理由教えてあげようか。」
「それは是非。」
全然確証なんてない話。
けど、戦国の世ではよくある話。
そして私にとっては最も我慢ならない話。
「二年前からそうだった。それに今回の連合軍。私の読みが間違ってないなら…。」
この人はずっと、私が一番恐れていることをやろうとしていた。
「討とうとしたよね、ハルを。」
このことに気付いたのはアレンデール側では私だけ。
ハルだってたぶん気付いてない。
「…へえ。俺の最奥の手まで読んだのは貴女が初めてかもしれない。」
「嬉しくない。」
「…なるほど。そこまで読まれていたとすれば、これだけ嫌われるわけか。」
「だからもう関わりたくもないんですけど。」
相変わらず涼しい顔で、涼しい見た目のシオン将軍はただ飄々としていて。向けられた剣を気にも止めない。
「ハルはそう簡単に討てる相手じゃない。けど、そんなハルにも唯一貴女という弱点がある。」
「…否定はしないけど、これでハルはもう誰にも討てない。」
「戦の神は貴女を再び戦場に引っ張り出す。そうなった時、また同じ事を繰り返すつもりですか?」
「っ私はもう戦には出ない。だからハルがもう私を庇って傷を負うことなんてない。」
そう。
そんなことにはもうならない。
そうならなくて済むように国を出た。