(二)この世界ごと愛したい



「今まで城にいた反動か、自分の正義感か。もう彼女を止めるのはハルにも難しいって事か。」


「…シオンはリンのどんなとこに惹かれたの?」




シオン将軍はそう言って目を伏せる。



十年弱、それほど時間が経った今でも鮮明に蘇る。






アレンデールの固く閉ざされた部屋の中で、月明かりに照らされた一人の少女。







「…忘れた。」


「絶対嘘じゃん。」


「…さあ?」


「あーあ。リンって何でこう人を寄せ付けずにはいられないんだろうね。」





それはもう引力のように。



火龍の力が人の心を魅了するように。




はたまた、火龍の力がそうさせているのか。






「…あ、ユイ姫が近々呼ぶそうだ。」


「またあの女か。婚約者だからって俺をどこまで虐めれば気が済むんだろ。」


「前回途中で逃げるからだろ。」


「もう我慢ならなかったし。あの時は戦前でバタバタしてたからなー。あんだけ金渡したのに高頻度で呼ばれたんじゃ意味ないよね。」


「…あの金、彼女から貰ったって?」




私がディオンとの戦で得た恩賞。


トキはその一部を婚約者へ支払っていた。





「そう!本当にいい子なんだよ。戦の恩賞全部くれた。みんながみんなリンみたいな姫ならいいのにってくだらないことまで考えさせられた。」


「…彼女みたいなタイプの方が稀有だ。」


「うん。だからあんまりリンを困らせないでね。」


「…困ってるのは俺。」




そのまま兄弟で情報の交換と共有。


トキとは仕事上の付き合いと言ったシオン将軍。お互いにこうして支え合うことができる。




私の知らない、新しい兄弟の形。





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