(二)この世界ごと愛したい





そこはちゃんと理解しておかなきゃいけない。





「百戦百勝は善の善なる者に非ず…か。」




戦わずして勝てるならそれに越したことはない。






「貴女がトキに拘る理由は知りませんけど、出来ればユイ姫とは会うべきじゃない。」


「だからシオン将軍が何とかしてあげてよ。」


「そもそも何とか出来る話ならトキがもう何とかしてる。出来ないからこうなってるんでしょ。」


「そこに活路を見出すのが兄というものです。」




ハルならそうします。


私もアルのためなら死力を尽くします。






「…それに貴女の二手目。その手を使うなら、俺はまた貴女に嫌われるんでしょうね。」


「あれ?私がどうなるか分かっちゃった?」


「元々ハルの首に狙いを付けたのは貴女を城から出すため。その城にまた戻るなら振り出しです。」


「…変な話だなー。何でシオン将軍が私を城から出してくれようとするの?」




それも昔私に会ったことと関係があるんだろうけど。私はまだ思い出せてない。


それに今までハルを狙ったことも、私を城から出すためだったのを今初めて知りましたけど。




「…ただの気まぐれ。」


「はい?」


「天候の話と同じで興味を惹かれた。貴女の意味不明な謎掛けの答えが、俺は知りたくて堪らなかった。」


「謎掛け…?」




昔の私は。


シオン将軍に一体何を言ったんだろう。








「前門の虎、後門の狼。」


「災難に続く災難を表す意…ん?あれ?」




何かその言葉に、覚えがある…かも。




「その状態から脱する方法は何か、貴女が俺に聞いたんです。」


「そうだっけ?」


「あの時はその言葉の意味も知らずに適当なこと言ってすみません。」


「んー、何か覚えがあるような?」




モヤモヤしてきた。


覚えはあるのにすっごく曖昧で、靄がかかった私の記憶。






「だけど、その意味が分かった今も俺の答えは変わらない。」


「……。」





「貴女には狼の方へ進んでほしい。」




前門の虎ではなく。


後門の狼の方へ。



その本来の意味が変わらないのならば、それはどちらも災難に違いはないはず。









「俺なら貴女を世界から守れる。」




はっきりと、真っ直ぐに。



そう言い切れるだけの力があることは、私も痛いほど知ってる。




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