(二)この世界ごと愛したい
今あの頃に戻れるなら言ってあげたい。
みんなが心配するし、大変だから早くお家に帰りなさいって。
「…これどうやったら開くの?」
「風船は開けるもんちゃうわ。割るねん。」
「割る!?」
「剣先当てれば割れるで。」
でもでも、そうなったら気体はすぐに気化するよね。五感で味わいたいのに。
「おーちゃん風船ありがと。ちょっとやり方考えるねー。」
「…最初から普通に礼言えばええねん。」
「うん、ごめんね。私が大人にならなきゃいけなかったね。」
「いっちいち腹立つ言い方する奴やな!?」
おーちゃんは年上のくせに子供だからな。
仕方ないんだ、うん。
「俺を助けようって必死やったらしいけどな?」
「なっ、私は自分のためにやっただけで…!」
「それは知らんけど俺はそう聞いたし。」
知っててくれよ!?
そんな勘違いさせたくないよ!?私本気で自分のことしか考えてなかったよ!?
「…でも皆んな流石におーちゃんに任せすぎじゃない?私が言わなきゃ誰も消火しないし?」
「平和ボケしとるだけや。それがこの国のええとこやし。」
「まあ、私は良いんだけど。おーちゃんがしんどそうだなって思うだけで。」
「……。」
あれだけ頼りにされたら、正義のヒーローにならざるを得ないよね。
例えなりたくなかったとしても。
「…っおーちゃん?」
不意に、おーちゃんが私の腕を掴んだ。
「…お前の方がしんどそうやん。」
「傷の話?」
「鬼人が倒れたあの時、しばらく戦神は戦場にずっと駆り出されとったやろ。」
「あー懐かしいね。」
ハルが不在の穴は大きすぎて。
心配性なパパだけど、私を酷使せねばならないほど確かに危うい状況だった。