(二)この世界ごと愛したい
一体、誰が誰の女だ。
私は店員のお姉さんに彼女じゃないと言った手前、気まずい思いをする羽目になった。
「お前少しは抵抗するなり反撃するなり何かないのかあ!?」
「…なんで私が怒られてるの。」
大体、反撃も何も私は攻撃されたわけじゃないし。気安く触られるのは確かに少し嫌かもだけど。
「…あ!アキトこっち!」
「引っ張んな!?」
私は未だ繋がれたままの手を良いことに、グイグイと引っ張って街の商店を散策。
そんな中、やはり人気者のアキトは周囲の目を惹く。
店員さんも街の住人も、色んな人に声を掛けられつつ。私はまたアキトの彼女という位置付けで話が進んで行く。
もう面倒なので。
彼女でいいです。
「お花屋さんだー!」
「お前には無縁そうだがなあ。」
「そんなことないよー。ママがお花好きだから私も少しは知ってるもんー。」
それに城にあった図鑑も把握している。
結局、多種の花々を直接見ることが叶わない私の探究心はそこまでではなかったけども。
「そう言えば将印に刻む花、アキトは何にしたの?」
「…これ。」
アキトが私に将印を差し出した。
裏を見てみると。
そこに描かれていた花は、椿の花。
「なんで椿?」
「椿っていうのかこの花。」
「…知らずに選んだんだ。」
「鬼人は?」
ハルの将印の花は何かとアキトが聞くけど。
花に興味ないくせに、ハルのことには興味津々なアキトに思わず笑ってしまう。
「ハルは桜だよ。」
「鬼人は花詳しいのか!?」
「まさか。ハルが知ってる唯一の花なんじゃない?」
あのハルが花に興味があるとは思えない。
そういう意味でもやっぱり二人は似てる。
「桜かあ。」
「あ、はいこれ返すね。」
見せてもらえて満足したので、私はアキトに将印を返す。
「…そのまま持っててくれてもいいんだがなあ。」
「はい?」
「…まだ違えか。」
「どうしたの?」
ブツブツと何かを呟きながらも、アキトは私から将印を受け取った。
椿の花。
私の記憶では、誇らしく咲く。
赤い花びらが何とも綺麗な花。その雄蕊は鮮やかな金色にも見える黄色。
『リンは椿の花によく似てるわね。』
かなり昔に、ママがそんなことを言っていたような気もする。