(二)この世界ごと愛したい
模型も動かしてみたい。
本も全部読みたい。
この地図も頭に叩き込みたい。
「時間が、足りない…。」
思わず目に涙が浮かぶほどに悔しい。
一ヶ月じゃ足りない。せめて半年は欲しい。だけど実際ここに留まれるのは一ヶ月が限界。
それ以上長居すると、ここが無事ではいられなくなる可能性が出て来る。
「ちょっと何で泣きそうなの?」
「うー…。」
「…俺がいない間、散らかさないなら入ってもいいよ。本も俺のお勧めだけ選んでアキトの部屋に運んであげる。」
トキが優しい。
アキトも思わず驚いている。
「リンにはそれだけ救われてる。たぶん、これからも助けてもらうだろうからね。」
「私はこんな貴重なもの見せて貰えるほどのことはしてないよっ!」
「ここが実家じゃなくてよかったよ。一部だけ運んで来ただけだから。」
「うわー。こんな夢見たいな場所にいられるなら、トキのお嫁さんになるのもいいかもしれない。」
冗談混じりでそう言った私に、嬉しそうにも切なそうにも見える表情をするトキ。
「嬉しいし光栄だけど、リンと結婚は出来ないよ。俺、婚約者いるから。」
…え。
トキに、婚約者???
「…ふられちゃったー。」
私が思わず、さらに冗談っぽく返したのは。
婚約者の話をしたトキと、それを知っていただろうアキトの感情が、大きく揺れたのに気付いたから。