(二)この世界ごと愛したい
ハルはそのまま、私が無造作に束ねた髪を解く。
そこに顔を埋めたハルが言った。
「帰るぞ。」
「…うん。」
アレンデールへ。
約束の場所へ。
長い冬を乗り越えた私を、こうして春風が攫って行く。
「お前の泣き顔は昔から吐きそうなくらい嫌いだ。」
「…え。」
「けど、俺を想って泣く顔は悪くねえな。でもまだ泣くな。吐き気がする程可愛い。」
「は…?」
吐き気がするとか。
ハルに初めて言われたんですけど。
「ルイ、お前がモタモタしたせいでリンの睡眠時間が足りてねえじゃねえか。」
「俺のせいにすんな。」
ふわっと外套のような布が私を包む。
この場に付き合わされたるうが、恐らく私の薄着を気にしてくれたんだろう。
「てか、どう収拾すんだよ。他所の国に押し入ってまた戦争になっても知らねえぞ。俺はリンだけ連れて帰るからな。」
「お前が残れ。俺はリンと祭りに行かなきゃならねえ。」
「誰のせいだと思ってんだよ。」
「俺は俺のリンを迎えに来ただけだ。何が悪い。」
この二人の小競り合いも懐かしくなった。
私は外套に包まれたまま、未だハルに抱えられたまま。
「他人の迷惑考えろよ。見てみろ、国の連中大いに警戒してんぞ。」
「だから何だよ。」
「何だよじゃねえよ。お前一人ならまだしも、俺のリンに何かあったらどうすんだよ。」
「まずお前から薙ぎ倒すぞ。誰のリンに何言ってんだてめえ。」
外套の中で、幸せをただ噛み締める私は。
今はなんて不届者なんだろう。
「ご挨拶してもええやろか。」
仲良く喧嘩する二人に声を掛けたのは、この場で一番大人なカイ。
「アレンデール王子と、期待の新将さん。」
「あ?」
「その子の雇い主やねんけど、いつかご挨拶せなあかんなって思ててん。」
「…雇い主…だと?」