(二)この世界ごと愛したい
この状況で、どう寝ろと…?
ハルは頑なに店内に入ろうとはせず、逆にるうは行ってしまって。
「…寝れねえか?」
「無理。」
「…おいルイ!リン連れてけ!」
寝るのは無理だと言うと、るうを呼び戻す。
「お前はどこまで自由だよ。」
「ルイ、離すなよ。」
「じゃあ一生離さねえ。」
「ふざけてねえで早くしろ。」
ハルは私をるうに手渡し。
るうは私を抱えたまま店の中に戻る。
それを見送ったハルは酒場の外に居るまま、その場に腰掛ける。
「…やっぱ、お嬢がこの国におるん嫌か?」
そんなハルにカイが声を掛けた。
「あ?」
「随分嫌ってそうに見えるで?」
「…どうせ遅かれ早かれリンは導かれるんだろ。」
この国に、私は導かれると。
「だが確かに言う通りだ。」
導かれ、際限ない波に呑まれるくらいなら。
「この国だけは外してくれとは思ったな。」
「…正直な人やな。」
「別に些細なことだ。俺は神にも負ける気はねえからな。」
「さよか。」
カイと話すハルに次に近付くのは、先程るうと言い合いをしていたおーちゃん。
「…これが、鬼人か。」
「…うぜえ国だ。見せもんになった覚えはねえぞ。」
「どないする気なん。」
るう以外、ハルと私が揃うところを初めて見た。
るうはもうずっと見て来たので、そこに何の違和感も感じないが。初見の人間はそうではない。
「こんだけ縛り付けて、お嬢の未来を潰す気かって聞いてんねん。」
「……。」
「お前、自分が何してるか分かってるん?」
「…あーうぜえ。」
ハルはおーちゃんと会話をする気はないようで、ただ空を見るだけ。
それがまたおーちゃんを怒らせる。
「お嬢が苦しんでるの、全部お前のせいやったんやな。」
「……。」
「分かっててやってるんやったら、本気で奪いに行くで。」
「…奪う?」
その時、ハルは空からおーちゃんへ視線を移す。
「俺から、リンを…奪うって?」
「そうでもせな、このままにしてたらお嬢は一生お前に囚われたままやん。」
「俺は離す気はねえ。それでも奪いてえなら、死ぬ気で来いよ。」
ハルはまた空へと視線を戻す。
しかし、明らかな殺気がおーちゃんへ向く。
「万が一俺を討てたとしても、リンは手に入らねえがな。」
「そう仕向けてる奴が何言うてんねん。」