(二)この世界ごと愛したい



同じく殺気を溢すおーちゃんに、ハルは笑う。




「どうせ俺には勝てねえよ。」


「また見た目で判断しよって…!」


「見た目って何だよ。お前の見た目に興味はねえ。」


「持たれたくもないわ!」



キャンキャンと吠えるおーちゃんに、珍しくハルが真剣に言葉を投げた。





「不思議だな。リンを無意味に大事に想う奴程、俺には勝てねえように出来てんだから。」


「それはお前がっ…!」


「別にそこは俺の知ったことじゃねえ。そっちの問題だろうが。」



シオンがハルを残酷だと言うのは、そのせい。


このハルの狂気にも似た愛が、敵の動きを鈍らせる。





「俺を殺せばリンが死ぬって、勝手に臆して自滅してくれるなら結構なことだ。」


「…最悪やな。こんな兄貴マジでお嬢が不憫やわ。」


「悪いが兄としての立場はとうに捨てた。」


「もっと最悪や。歪んだ感情に勝手に巻き込みよって。」



おーちゃんから放たれる殺気は、止まることを知らず。


その殺気がまた、面倒事を呼んでしまう。





「おい、ハル何やってんだ。」


「…ルイてめえ。」


「あ?」


「リン離すなっつったろ!?何してんだてめえは!?」



殺気が飛び交うのを案じて来たるうは、可哀想にも怒鳴られる。




「リンなら一人で上に行った。」


「一人で行かせねえようにお前に預けたんだろうが!?」



渋々立ち上がり、頑なに入らなかった店内へ。


今度は偉そうにズカズカと入る。



一応中にいるアキトとトキには目もくれず、一目散に上階へ上がろうとするハル。





「ハル待てコラ。」


「もうお前には頼まねえ。渡した俺が馬鹿だった。」


「馬鹿は否定しねえが、リンならたぶん…」



ハルを引き止めたるうだが、大きな物音に言葉を遮られる。




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