(二)この世界ごと愛したい
覆面までして顔を隠したのは、割と最近なのかな。
ママはどうも知っているようだし。ママが良い人だというなら本当に良い人なんだろう。
…変人には違いないだろうけど。
「ママまだ交流あるの?」
「いいえ、アレンデールに来てからはほとんどないけど。」
「もし会える機会があったら、私の代わりにお礼言っといてー。私お礼も言えずにお邪魔してるし。」
「分かったわ、会える機会探してみるわね。」
私よりも繋がりのあるママの方が、向こうも警戒しなくて済むだろうし。
顔を隠す理由があるなら、その必要がないママの方が良いのかもしれないなと思った。
「じゃあそろそろ行ってくるー。」
「気を付けてね。無茶はしないように。」
「はーい。」
「外の世界、楽しんで来てね。」
にっこり笑うママはやっぱり綺麗だ。
そんなママに、私も笑顔で頷いて。ハルが待つと言っていた裏山まで飛んで行く。
「…あれ?」
裏山にはまだハルは来ていない。
仕方がないので一人で、堂々と咲き誇る一本の桜を見る。
「…綺麗。」
首に付けている将印を懐から取り出す。
ここでハルと約束したんだっけ。それももう昔のことみたいで。時間が経てば忘れてしまわないかと恐ろしくなる。
桜の木の幹に触れてお願いをしていると、徐々に馬の足音が聞こえて来る。
「ハルっ!」
「待たせたな、悪いリン。」
「あれ?るうは?」
「置いて来た。」
あら、お別れ言えなかった。
るうはカイの酒場に今後通ってくれるだろうし、その内会えるか。
「じゃあまたねって言っといてー。」
「ああ。お前桜と何話してたんだよ。」
「そんな力はございません。身勝手なお願いをしてただけだよー。」
「お願い?」
来世まで忘れなくて済むように、ずっとずっとここで咲き続けてほしいと。
そして…。
「来世のハルと、ここで巡り合わせてほしいなって。」
「…それ良いな。」
下らないと笑い飛ばしても良いような話を、ハルは嬉しそうに聞いてくれる。