(二)この世界ごと愛したい
ハルを膝に乗せたまま、いつの間にか私も眠ってしまったらしく。
変な体勢で寝てしまったので痛む身体に引き起こされ、目を開けると外は真っ暗。部屋も真っ暗で、目を開けたのに何も見えない。
「…?」
見えないけど、膝は重いのでハルはまだ居る。
え?まだ寝てるの?
「ハル?」
「……。」
呼び掛けても応答なし。
寝てるだけ…。
なのに。そんなことは分かってるのに。
この状態は私にはやはりトラウマに近いもので。
「っは、る。」
思い出したくもない恐怖が蘇る。
そんな私の感情に敏感なハルは、せっかく眠っているのに目を開かざるを得ない。
「リン…?」
「…ん。」
「…悪い。寝過ぎた。てか暗。」
「私、灯り付けるね。」
膝の上から重みが消えて、ハルが起き上がったのは分かる。
灯りを付けるなんて言ったが、どこにあるかなんて今日初めてここに来た私は知らない。知ってても、たぶん今は付けられない。
情けない顔を戻せるまで、震える手が治るまで、このまま何も見せずにいたい。
「リン。」
「ごめん、灯りどこか分かんない。」
「…リン。」
「もうちょっと待ってね。」
すぐに、収まるから。
距離を取ったはずなのに、こんな暗闇でどうして私の居場所が分かるのか。
ハルが私を捕まえてしまう。
「俺はここにいる。」
「…ハル何で見えるの?」
「何も見えねえよ。ただ、お前が泣いてる匂いがする。」
恐るべき嗅覚だ。
そして、ハルに抱き締められて素直に不安が溶けていくのが分かる。
「悪い。」
「…ハルは何も悪くないよ。」
「久々のお前の膝があまりに心地良すぎて全然起きられなかった。」
「…ごめんね。」
こうなってしまっては、ハルはきっとまた私の前では一層寝ないように気を回してしまうんだろう。
また無理をさせてしまうんだろう。