(二)この世界ごと愛したい
それでも文句も言わずに、ハルはそのまま私を外まで連れ出した。
外は月明かりで、部屋の中ほど暗くはない。照らす必要もないので炎を消してハルを見る。
「散歩でもするかー。」
「うん。」
降ろしてもらって、桜並木の中を歩く。
花は咲かずとも凛とした木々達に、私の心もすっかり落ち着いて行く。
「すごいね、本当に千本あるの?」
「この辺の地名がソルでは千桜らしいから、恐らくそうだろうと思ってる。」
「素敵な地名だね。」
「リンが来れば咲くんだと思ってたんだけどな。」
ハルは私を何でも魔法使いだと思ってるのかな。
属性炎なのでお花は専門外ですよ。
「…でも、もうすぐ咲くと思うよ。」
「リンの誕生日に咲かねえ花は花じゃねえ。」
「お花に理不尽言わないでー。」
それに、本当に開花は近い…気がする。
「そういや舞は?」
「あー練習はしてないけど、型は記憶したから。出来るか分かんないけど。」
「…見たい。」
見たいと言われても。
音もなければ、舞らしい小道具も持ってない。
「うーん。記憶はしたものの…。」
「ダメか?」
「ハルのお願いは断りにくいー。でも音がないから、ここはハルの力を借りよう。」
私は知ってる。
ハルは確かに太陽に愛されているが、ハルの本質は風だ。
その風の流れに身体を乗せる。
音楽に乗せて動くよりも、私にはこっちが簡単だろうと思っていた。
だって、ハルの風はこんなにも美しい。
そんな綺麗な風を、私は読み取る力を持っている。そして、そんな風はいつも私を包んでくれる。
初めての舞だし、ちょっと自信もなかったし、恥ずかしくなったから私は割とすぐに動きを止めた。