「逢いたい」でいっぱいになったなら~私の片想いが終わるとき
「たけ・・・明石さん、お帰りなさい。お疲れ様です」
「ただいまー。美琴、今日はもう上がれそう?」

「うん。上がっちゃう」
「そっか。ん」
手に持つハチミツレモンのペットボトルを差し出された。

「ありがとう」
私の好きなハチミツレモン。

「1時間…いや、30分待っててくれたら送っていけるよ?」
と言われた。

いつも通り健の優しさにドキッとしてしまい、
「ううん!大丈夫だよ」
と即答してしまった。

その瞬間、健は目を瞬かせ、私の瞳を見た。
一瞬だけ、ほんの少し左右に揺れる瞳。
健が真意を探る時の癖。

いつもなら、何時間でも待って一緒に帰る私が断わったから不信に感じたのだろう。
『おめでとう』って言うつもりだったけど、健の登場が不意打ち過ぎて。
つい、逃げてしまった。 

「山口さんと帰るから大丈夫だよ。それに山口さんと話したいこともあるし」
「分かった。二人とも気を付けて帰れよ」
「はい」
「あ、はい」
唐突に声を掛けられた山口さんが慌てて返事をした。

「山口さん、もう帰れる?」
「はい。あ、でも…私またでもいいですよ」
山口さんはこそこそっと近づいてきて、小声で尋ねた。

「大丈夫大丈夫。気にしないで」
そう言って、再び健に顔を向ける。

「じゃ、明石さん。がんばってくださいね」
不自然に見えないように笑顔を見せた。

「ん、お疲れー」
「お先に失礼します」

お辞儀をして健に背をむけた。

数歩歩いたところで
「美琴」
と呼び止められた。


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