「逢いたい」でいっぱいになったなら~私の片想いが終わるとき
バッグを持ち直した彼は、
「俺も初めて来たけど。多分、こっちだよ」
2,3歩歩いて振り返った。
私は慌てて彼に追いついて、横に並んで歩き始めた。

「初めてなのに、どうしてこっちって分かるんですか?」
「ああ。今、地図見せてもらったから」

「え?あれだけで?」
「うん。俺、地図見るの・・・得意?」

「なぜ語尾が疑問形?」
「地図見るのに苦手とかっていうのはよく言うけど、得意ってあんまり言わないじゃない?だから」

「確かに。ちなみに私は苦手です」
「うん。わかる」

そう言って笑いあった。
並んで歩くこの人から爽やかで少しだけ爽やかなシトラスの香りがした。


「君も出るの?」
「え?」
「今日のフットサル、でるんでしょ?」
彼が私の服装に目をむける。
まあ、ジャージ着てフットサル場探してたらわかるよね。

「はい。今日は男女混合のゲームですから、私も少し出ると思います」
「それなら、戦っちゃうかもしれないね」

「そうですね。ポジションどこなんですか?」
「俺、普段はサッカーしてるから、専門用語っていまいちわからないんだよね。
フットサルは知り合いに誘われて、今日が初めてなんだ。
多分サイド…アラ…だっけ?」
と小首を傾げた。

いろんな話をしながら、私はこの人を知っている気がした。
低くて時々鼻にかかる甘い声。
特に『ら』の発音に少し癖のある、落ち着いた話し方。
どこかで聞いたことがある・・・気がする。
どこで聞いたんだろう?

そんなことを考えながら歩いていると会場に着いた。
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