「逢いたい」でいっぱいになったなら~私の片想いが終わるとき
「これ置くの、あそこの机の上でいいか?」
「うん」

二人で、パンフレットを机に並べた。


「一束は営業室でいいんだよな?」
「うん。あ。先に見る?」
「ん、見たい」

茶色の包装紙を剥がして、できたてのパンフレットを二冊取り出し、一冊を手渡した。

「ありがとう」

二人でパラパラと捲って、出来ばえをを確認する。

「最近さ、美琴なんかあった?」
「え?」
「なんか、悩んでる?」
「……なんで?」

「なんとなく。そんな気がした」

健のことで落ち込んでいたなんて言えるわけもなく、相変わらずちょっとした変化にも気がつく健に悲しくなった。
同時にこんな風に心が乱れてしまうこと自体が、コウさんに申し訳なさと後ろめたさを感じてしまう。


「悩んでたけど、もう大丈夫」
「そうか?無理すんなよ」
パンフレットに目を落としたまま、健が言った。

「うん。ありがとう………あのさ」
「ん?」
健の視線がパンフレットから私に移った。

「私」
「うん」
健が私を見つめる。
健と目が合う。

「私ね」
「うん」

健の視線に心臓がバクバクと音を立てる。

「私、コウさんと付き合うことになった」
「え?」

バサッ。
健がパンフレットを落とした。

慌ててしゃがんで拾い上げた健が、パンフレットをパタパタで手で叩きながら
「コウさんって、磯ケ谷さん?」
と尋ねた。

パンフレットを見つめたままの健を見下ろしながら、
「うん、あの磯ケ谷紘一さん」
と答えた。そして、
「だから、健と二人だけでごはんとか、行けない」
と付け加えた。
きっとコウさんは嫌だとか言わないと思う。でも、きっといい気分ではないと思うから、もう二人で会わないと決めた。


健はしゃがんだまま、手にあるパンフレットを見ていた。
「いつから?つーか、磯ケ谷さんと知り合ったのってついこの間じゃん。
いつの間にそんなことになっちゃったわけ?」

健が、私を見上げた。
その目がにらんでいるようで、まるで怒ったり苛立ったりしているように見えた。

「仕事帰りにばったり会って、お酒飲んだり、ごはん食べたり、サッカーしたりして……昨日、付き合うことになった」

「昨日?…あ…。
もしかして、昨日、電話したとき磯ケ谷さんといたんだ?」
「う、うん。そう」

「そっか。そうだったんだ。一緒にいたんだ。
ごめん、お邪魔しちゃったんだね」
「べ、別に邪魔なんてしてないよ」

「もしかして、今晩会うのも磯ケ谷さん?」
「…うん」

「そっか」
「………」

「そうだよな、磯ケ谷さんって俺から見ても格好いいもんな。そりゃ、惚れるわ!
そっか。うん」

立ち上がって、両足を揃えて膝を伸ばした。
そのまま暫しじっとしていた健は、顔をあげて名前を呼んだ。

「美琴」
「ん?」
「少しだけ」
腕を取られて、引っ張られる。

トン。

健の胸にぶつかったと思ったらそのまま抱き締められた。

「え?」

「おめでとう。でももう、二人で飯とか誘えないのは、少し、寂しいな」
「た、た、た、た、健?」
「あははは、動揺しすぎ」
そう笑った健は、ゆっくりと身体をはなし、私の瞳を見つめた。
揺らめく瞳。
今までで一番近くで見つめられ、胸がキュンと痛んだ。


「パンフ、一束、営業室用に貰ってくぞ」

健はポンポンと頭を撫で、私を一人残して部屋をでていった。

 
なんなのよ・・・・。 
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