「逢いたい」でいっぱいになったなら~私の片想いが終わるとき
  *

「お風呂、入って来るね」
タブレットを渡され、
「何か見たいのないか探してて」
と言われた。
「うん」
ソファに座ったままタブレットを受け取り、コウさんを見上げた。

甘く微笑んだコウさんは頭をぐしゃと撫でて、お風呂場に行った。
いつものポンポンではなく、ぐしゃと撫でたことに何か意味はあるのだろうか?
手櫛で髪を直して、タブレットに目をやった。
けれど、頭の中はコウさんの言った言葉でいっぱいだった。

 『おかえりって言って、ただいまって言って、ご飯食べて、風呂入って』
 『で、一緒にお茶飲んで、おしゃべりして‥‥俺に抱かれて?』

思い出しただけで顔が熱くなる。
落ち着け、美琴。落ち着け、美琴。
と心の中で唱えたが、多分、耳まで赤いだろう。

「耳…」

がばっと咥えられた耳に手を置く。
は、恥ずかしすぎる。
落ち着け、私。落ち着け、私。
ふぅと息を吐き、ソファからずり落ちるように床に座って、テーブルの上に置かれたお茶を一口飲んだ。
「一緒にお茶飲んで、おしゃべりしたら、コウさんと……きゃぁ」
自分で口に出して恥ずかしくなってぎゅっと目を閉じて、ソファに頭をつけた。

「もうダメかも」
頬にあたるソファの感触。
心臓のドキドキは止まらない。

つい先日、健に失恋して泣いたのに。
ずっと片想いしていた。
健が大学卒業した後、告白された人と付き合ったけれど、キスされただけで気持ち悪くてすぐに別れた。

コウさんと出会ってまだほんの少ししかたっていないのに、なぜだろう。
抱きしめられても、キスをされても嫌じゃなかった。
驚いたし、ものすごくドキドキもしたけど、嫌じゃなかった。

一緒にいるだけであったかい気持ちになって、ドキドキさせられるばかりで、嫌だと感じることは全くなかった。

しかも、さっき、自分から好きと言った。
流されたんじゃない。
ちゃんとコウさんのことを好きだと思った。

出会ってまだ少し。
この少しの間に、じわりじわりとコウさんが私の中で大きな存在になって行ったんだ。


「美琴?」
お風呂から上がったコウさんがタオルで頭を拭きながらこちらに歩いてくる。

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