「逢いたい」でいっぱいになったなら~私の片想いが終わるとき
やっと確認作業が終わった時は、もう正午もとっくに回った後だった。
他の商品部の人達は今日中にやっておく必要のある仕事にまだ手をつけられていなかった。3人は昼食後にそちらの作業をすることになった。
私は昼食はあるからと一人営業室に戻った。
引き出しからプロテインバーを1本取り出して休憩室に移動した。
コーヒーをついで、ミルクと砂糖を入れた。
ブラックコーヒーにしなかったのは、午前中に健に言われた胃に優しい方を選んだからだった。
休憩室のパーテーションの影に隠れてプロテインバーを齧った。
もぐもぐもぐ。
空腹を満たすだけの食事。
本当だったら今頃コウさんと何か食べていたんだろうなぁ。
こんなことを考えたって、私が食べているものも場所も変わることはないんだ。
さっさと上階の広い会議室に行って、修正シールを貼ってしまおう。
ごくごく、もぐもぐ。
他の部署の人達も15分ずつシール貼りをしてくれる予定になっていたから、上手くいけば今日中に各営業所発送分まで準備できるかもしれない。
それにしても、誤字箇所があの一つだけで本当に良かった。
もぐもぐ、ごっくん。
「××××××」
「××××××」
誰かが話しながら休憩室に入って来た。
ごくん。
「それにしてもなんで俺たちがシール貼んなきゃなんねえんだろうな?」
「ああ。でも15分だろ?」
ピッ。ガコン。
「15分だけどさ、日曜出勤してるのは展示会準備の為なのにさ、なんで他の部のミスのカバーしなくちゃなんねーんだ?」
「まあ、ミスしたんなら自分たちでどうにかして欲しいとは思うよな」
ピッ。ガコン。
自動販売機からドリンクが落ちる音がした。
嫌な会話を聞いてしまった。
腹立たしい気持ちもあるが、ミスをしたのも商品部で、他部署の人達にシール貼りを手伝っていることも間違いではない。
私達だって好きでミスをしたわけではない。
だけど、ここで出て行って文句を言う勇気もない。
悔しくて歯を食いしばった。
「誰も好きでミスなんてするわけないし、他の人に手伝って欲しいなんて思うわけないだろ」
「あ、明石さん。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「お疲れ」
健が入って来たことが分かった。
「あのさ、俺ら営業だってさ、商品部に結構無理なお願い事とかしてるだろ。でも、みんな協力してくれてるんじゃねえの?」
健はいつもと違う、厳しい声で話してる…。
「俺はいま誤字が見つかってよかったと思ってるよ。
もし気が付かなくて商談中に取引先に言われたとしたら、お前、どうすんの?商品部のせいにするの?」
「‥‥‥」
「いえ…しません」
「まあ、さすがにめんどくさいって思うなとは言わないよ。
でも、口にするな。聞いてるこっちが胸糞悪りぃ!
それにやりたくないならしなきゃいいよ。
その代わり、もう誰かに助けてくれなんて言うなよ」
「いや、すみませんでした。シール、貼ってきます」
「僕も、行ってきます。すみませんでした」
バタバタと走っていく足音がした。
私は存在を気付かれないように、そのまま動かずにじっと息をひそめた。
ピッ。ガコン。
自販機の音が聞こえた。
「美琴」
「え?」
振り返ると、健がパーテーションの端から顔を出した。
「お疲れ」
「いつから、私がいるって気付いてたの?」
「ああ、プロテインバーを持って営業室でてった時…かな。
ここで食べるんだろうなって思ってさ」
「そっか…」
「大丈夫か?」
健が私の前に立った。
いつもと同様な近い距離にドキッとしてしまう。
「うん。…ありがとう」
「いや…こっちこそ悪いな、営業の奴らの声、聞こえたよな」
「うん。でも、健が言ってくれて嬉しかった」
「そう言いつつ、めちゃくちゃ悔しそうな顔してるけどな」
「うん。悔しかった。何も文句言えない自分が悔しい…ぶ」
健が、片手で私の両頬を挟んだ。
「ばーか、あのタイミングで文句なんて言えるかよ。言わなくてよかったんだよ」
「もう!頬っぺた潰れる!」
と健の腕を叩いた。
「ハハッ。つーか、美琴、ちゃんと飯食え」
「食べてるよ」
「どこがだよ」
「い、今は食べてなかったけど、朝ごはんはちゃんと食べたよ」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「そうか、昼もちゃんと食えよ」
「うん」
健は手を伸ばし、私の顔の横で止まった。
「じゃあな」
「うん」
…いつもなら頭を撫でられたはずだった。
多分、さっき撫でようとした…多分……。
「あ、美琴」
「ん?」
健が振り返ってペットボトルを投げた。
「うわ」
キャッチした私に向かって、
「あげる」
と言って出て行った。
私の手の中にあったのはホットレモンだった。
他の商品部の人達は今日中にやっておく必要のある仕事にまだ手をつけられていなかった。3人は昼食後にそちらの作業をすることになった。
私は昼食はあるからと一人営業室に戻った。
引き出しからプロテインバーを1本取り出して休憩室に移動した。
コーヒーをついで、ミルクと砂糖を入れた。
ブラックコーヒーにしなかったのは、午前中に健に言われた胃に優しい方を選んだからだった。
休憩室のパーテーションの影に隠れてプロテインバーを齧った。
もぐもぐもぐ。
空腹を満たすだけの食事。
本当だったら今頃コウさんと何か食べていたんだろうなぁ。
こんなことを考えたって、私が食べているものも場所も変わることはないんだ。
さっさと上階の広い会議室に行って、修正シールを貼ってしまおう。
ごくごく、もぐもぐ。
他の部署の人達も15分ずつシール貼りをしてくれる予定になっていたから、上手くいけば今日中に各営業所発送分まで準備できるかもしれない。
それにしても、誤字箇所があの一つだけで本当に良かった。
もぐもぐ、ごっくん。
「××××××」
「××××××」
誰かが話しながら休憩室に入って来た。
ごくん。
「それにしてもなんで俺たちがシール貼んなきゃなんねえんだろうな?」
「ああ。でも15分だろ?」
ピッ。ガコン。
「15分だけどさ、日曜出勤してるのは展示会準備の為なのにさ、なんで他の部のミスのカバーしなくちゃなんねーんだ?」
「まあ、ミスしたんなら自分たちでどうにかして欲しいとは思うよな」
ピッ。ガコン。
自動販売機からドリンクが落ちる音がした。
嫌な会話を聞いてしまった。
腹立たしい気持ちもあるが、ミスをしたのも商品部で、他部署の人達にシール貼りを手伝っていることも間違いではない。
私達だって好きでミスをしたわけではない。
だけど、ここで出て行って文句を言う勇気もない。
悔しくて歯を食いしばった。
「誰も好きでミスなんてするわけないし、他の人に手伝って欲しいなんて思うわけないだろ」
「あ、明石さん。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「お疲れ」
健が入って来たことが分かった。
「あのさ、俺ら営業だってさ、商品部に結構無理なお願い事とかしてるだろ。でも、みんな協力してくれてるんじゃねえの?」
健はいつもと違う、厳しい声で話してる…。
「俺はいま誤字が見つかってよかったと思ってるよ。
もし気が付かなくて商談中に取引先に言われたとしたら、お前、どうすんの?商品部のせいにするの?」
「‥‥‥」
「いえ…しません」
「まあ、さすがにめんどくさいって思うなとは言わないよ。
でも、口にするな。聞いてるこっちが胸糞悪りぃ!
それにやりたくないならしなきゃいいよ。
その代わり、もう誰かに助けてくれなんて言うなよ」
「いや、すみませんでした。シール、貼ってきます」
「僕も、行ってきます。すみませんでした」
バタバタと走っていく足音がした。
私は存在を気付かれないように、そのまま動かずにじっと息をひそめた。
ピッ。ガコン。
自販機の音が聞こえた。
「美琴」
「え?」
振り返ると、健がパーテーションの端から顔を出した。
「お疲れ」
「いつから、私がいるって気付いてたの?」
「ああ、プロテインバーを持って営業室でてった時…かな。
ここで食べるんだろうなって思ってさ」
「そっか…」
「大丈夫か?」
健が私の前に立った。
いつもと同様な近い距離にドキッとしてしまう。
「うん。…ありがとう」
「いや…こっちこそ悪いな、営業の奴らの声、聞こえたよな」
「うん。でも、健が言ってくれて嬉しかった」
「そう言いつつ、めちゃくちゃ悔しそうな顔してるけどな」
「うん。悔しかった。何も文句言えない自分が悔しい…ぶ」
健が、片手で私の両頬を挟んだ。
「ばーか、あのタイミングで文句なんて言えるかよ。言わなくてよかったんだよ」
「もう!頬っぺた潰れる!」
と健の腕を叩いた。
「ハハッ。つーか、美琴、ちゃんと飯食え」
「食べてるよ」
「どこがだよ」
「い、今は食べてなかったけど、朝ごはんはちゃんと食べたよ」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「そうか、昼もちゃんと食えよ」
「うん」
健は手を伸ばし、私の顔の横で止まった。
「じゃあな」
「うん」
…いつもなら頭を撫でられたはずだった。
多分、さっき撫でようとした…多分……。
「あ、美琴」
「ん?」
健が振り返ってペットボトルを投げた。
「うわ」
キャッチした私に向かって、
「あげる」
と言って出て行った。
私の手の中にあったのはホットレモンだった。