苦くも柔い恋
「どうも」
香坂に向かって短い挨拶を述べ、そのまま続けた。
「先日は失礼をすみませんでした」
「こちらこそ。彼女の恋人とは知らず疑ってしまって」
「いえ、突然押しかけたこちらが悪いので。教えていただき助かりました」
目の前の千晃は誰だ君はと問いたくなるような腰の低さで、和奏は信じられないものを見るような目を向けた。
千晃は自然な動きで和奏を引き寄せると、香坂を見据えた。
「彼女、もう連れて行っていいですか」
感情の読めない声色に香坂は勿論と返し、最後に和奏に視線を落とした。
「じゃあな橋本。また盆明けに」
「あ、はい。お疲れ様でした」
踵を返し去っていく香坂がほどほどの距離まで離れたところで、千晃は掴んだままだった和奏の腕を引いた。
「行くぞ」
「え、あ、うん」
呆気に取られていた和奏が正気に戻り、こちらの歩調に合わせてくれているであろう隣で歩く千晃に話しかけた。