苦くも柔い恋
「試験対策問題…?」
更にその上に大きく書かれた「一級建築士」の文字に、それまで聞くことのなかった千晃の職業が垣間見えた。
「…千晃って、建築士になったの…?」
「まあな」
「そうなんだ…。…因みに会社とかって…」
「桂建設」
建築業界に詳しくない和奏でも知っているほどの大手ゼネコンだった。
「…すごいね」
受験をするにあたり千晃が大学の建築学科を目指していたのは知っていた。
プライドの高い彼の事だからそれなりにいい企業に就職したんだろうなとは思っていたけれど、そんな国内トップの建設企業に本当に入社してしまうなんて、この男のスペックは本当にとんでもないと思う。
多少性格が厄介だが、それを差し引いても彼ほどのイケメンでかつ高収入だなんて有り余る魅力だ。
そりゃあ入社2年で車も購入できるわけだ。
必死に日々節約をしている自分がなんだか悔しくなってじとりと見つめれば、千晃の細く長い指が伸びてきた。
かつては部活の影響でヒビやあかぎれだらけだった手はすっかりしなやかさを取り戻しており、頬に触れた指の腹は硬くはあったけれど痛いとは感じなかった。
「お前汗すごいぞ。水分摂ったほうがいいんじゃないか」
「え、あ…うん。喉渇いた、かも」
「取ってくるから待ってろ」