苦くも柔い恋
「…不器用すぎるよ、ほんと…」
せっかく見ないようにしてたのに。
気付かないようにしてたのに。
こんなの、認めるしかなくなるじゃないか。
——やっぱり、千晃が好きなんだって。
ずっと目を背けて、逃げ続けてきた。
けれどそれは結局、また傷つくのが怖くて、臆病になって認めないようにしていたに過ぎなかった。
幾重にも覆われ自分ですら見えなくなっていた恋心を、千晃の言葉がひとつひとつ丁寧に剥がしていった。
けれどそこで見えたのは以前とは少し違う感情で。
かつては誰よりもかっこ良くてひたむきで、なんでも器用にこなす千晃に憧れて恋をした。
けれど今は、不器用で嫉妬深くて、子供っぽくて…そんなところも愛おしい。
なんでも完璧にこなしまう器用な千晃が、自分にだけ弱い部分を見せてくれる事が、たまらなく嬉しい。
今ならあの日——引退試合の日、なぜ彼が急に呼び出してキスをしてきたのか、少しだけ分かる気がした。